富永京子    「労組を若者の拠りどころに」


Profile

 とみながきょうこ 立命館大学産業社会学部准教授。東京大学大学院人文社会系研究科修士課程・博士課程修了。専攻は社会運動論。日本学術振興会特別研究員(PD)を経て、2015年より現職。著書に「みんなの『わがまま』入門」(左右社)、「社会運動のサブカルチャー化」(せりか書房)など。

 


  会運動を研究している職業柄、若者たちに社会運動や労働組合に参加してもらうにはどうしたらいいか、という講演依頼を受けることが多くあります。私も参加した、労働組合の研究機関が行った若者対象のアンケートを見ると、組合活動への参加率や意欲は、30代や40代は低いのですが、20代や10代は逆に高い傾向を示しています。クラウドファンディングやウェブ署名などオンラインのアクティビズム(積極行動主義)が浸透し、社会運動への抵抗感がなくなってきているのではないかと感じました。

 政治への関心も高まっています。ジェンダー平等や気候変動だけでなく、貧困や長時間労働にも関心はおよびます。そんな若い層も、サービス残業を2時間させられてもおかしいと思わなかったり、給料が低くても「生活保護を受けるレベルではないだけマシ」と考えたりしてしまう。自分を問題の当事者と思えないところはまだまだあるのかなと思います。

 それでも、安保法制に反対したSEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)の出現以降の10年間で、政治的な行動への抵抗が少なくなったといえるかもしれません。なるべく肉を食べないようにとか、友達に「彼氏いるの?」と聞かないとか、環境や人権に関する意識が浸透したとも感じます。

 彼らは、イスラエルによるパレスチナ・ガザへの攻撃に抗議し、抵抗の象徴である民族衣装クフィーヤを身につける、イスラエル産レモンを使ったチューハイを飲まないなど、普通の感覚で実践しています。

 

自分の声で実現するうれしさ

 

 社会運動の目的は明確です。ガザ侵攻に無関心ならばそもそも運動に参加しませんよね。そう考えると、労働組合の良いところは、とりあえず加入して活動に参加する中で、「ハラスメントに遭ったら助けてくれるかもしれない」などと、だんだん意義が分かってくることなのかなと思います。一人で社会運動をしていると、どうしても無理をしがち。でも、本来、社会はみんなで変えるものです。

 労働組合はその点で有効です。調査に参加して驚いたのは、組合活動に参加する人は嫌々やっていることを隠さないんですよ! 「先輩から言われて仕方なく」みたいな。それでも理念には一定賛同しているわけじゃないですか。しんどければ休んでもいい。できる時に役に立てばいい。そこは労働運動組織の良さだなと思いますね。

 昨年出版した「『ビックリハウス』と政治関心の戦後史」(晶文社)でも書いたのですが、多くの社会運動は1970年代に衰退したとされています。その中で労働運動だけは80年代がピークなんです。さまざまな考えを持つ職場の組合員を要求で包摂する労働組合の強みが表れていたと思います。

 私自身、産休・育休取得時に研究費を獲得できる仕組みを求め、労働組合が大学当局と交渉し実現してくれました。自分の声で働きにくさが改善されたら、うれしいですよね。組織を信頼できるし、労働者として大切にされているんだなと思える。「パレスチナに平和を」と声をあげても、なかなかかなわず燃え尽きてしまいがちなこの社会で、労働組合は、若者を支える有効な存在だと思います。