真 山 民「現代損保考」

       しん・さんみん 元損保社員。保険をキーに経済・IT等をレポート。


     激増する中小企業の倒産と損保代理店

 

    1万件を超えた企業の倒産

 

 1月14日の東京商工リサーチ(TSR)が、「2024年の全国企業倒産(件数負債総額1,000万円以上)が1万件を超えた」と発表した。1万件を超える企業倒産は、2013年(1万855件)以来、11年ぶり、四半期では、2022年4-6月期から2024年10-12月期まで11四半期連続で前年同期を上回っている。

 産業別では、10産業のうち、金融・保険業、不動産業を除く8産業で前年を上回った。最多は、サービス業他の3,329件(前年比13.2%増)で3年連続、1990年以降では、初めて3,000件台に乗せた。2024年4月から時間外労働の上限規制の「2024年問題」が適用された建設業が1,924件(同13.6%増)で3年連続、運輸業が457件(同9.8%増)で4年連続と、それぞれ前年を上回った。

 その他、倒産に追い込まれた企業の分野も多岐にわたっている。TSRが発表したデータによると、倒産件数が過去最多となった産業は次のとおりである。

 

  介護事業者、学習塾(負債も過去最多)、経営コンサルタント業、農業、児童福祉事業、焼き肉店

 

 倒産急増の要因

 

 「2024年は円安基調に乱高下が続き、物価上昇に歯止めがかからず、人手不足や最低賃金の引き上げなどで人件費も上昇し、幅広い分野でコストアップに見舞われた。また、コロナ禍の資金繰り支援で生じた過剰債務の解消が遅れ、企業収益に負担となって圧し掛かった」 TSRはホームページでこう伝えている。さらに、同社情報本部情報部部長の松永伸也氏が、次のように付け加える。

 「人件費や原材料など固定費の上昇分を価格に転嫁するには、よほど取り換えの利かない価値ある(付加価値の高い)商品やサービスを提供しなければ交渉できない。そうした強みのある企業でなければ、従業員も集まらない。人材の確保と流出防止のため、やむを得ず賃上げに踏み切ったものの、コスト増で収益が悪化した『賃上げ倒産』も起きている。中小企業の中でも、価格転嫁が進んだ企業と転嫁できない企業との明暗がクッキリ分かれている(「日刊ゲンダイ」1月17日)」。

 

 減り続ける損保代理店と募集従者

 

 2024年の産業別件数は、10産業のうち、金融・保険業、不動産業は前年を下回っている(金融・保険業・25件、対前年7件の減少、不動産業・280件,同8件の減少)。しかし、この数字には、先行きに見切りをつけて事業を畳んだ企業は含まれていない。事実、損保代理店数と募集従事者数は年々減り続けている。

 

 代理店数 

 2020年 165,185(対前年▼7,006) 

 2021年 160,463(同4,722) 

 2022年 156,152(同▼4,311) 

 2023年 150,652(▼5,500)

 

募集従事者数

 2020年 2,040,486(対前年▼-14,456)

 2021年 2,003,511(同▼36,975) 

 2022年 1,845,354(同▼158,157) 

 2023年 1,793,554(▼51,800)

 

  手数料をさらに削減する保険会社

 

生命保険も損害保険も、保険料に多少の差があっても、会社によって、よほど取り換えの利かない価値ある商品やサービスを販売しているわけではないし、代理店が固定費の上昇分を価格に転嫁できるわけではない。要するに会社が代理店に支払う手数料だけが頼りなのである。

 しかし、その手数料を保険会社は、さらに削減しようとしている。東京海上ホールディングス(HD)が、昨年11月に開催したIR(インベスター・リレーションズ)の資料「東京海上グループの経営戦略」は、代理店手数料についてこう述べている。

 「ディストリビューション(代理店への分配)については、オムニチャネル(*注1)の拡充に加え、提供価値に見合った手数料体系に大幅にシフト。代理店業務の一部を当社が引き取ってダイレクトに対応することで代理店手数料削減にも踏み込み、2026年度までに代理店手数料率を19%台、「新戦略」完遂後には18%台を実現する。その結果、事業費率は30%未満となる。」(因みに、東京海上ホールディングスグループの2023年度末の代理店手数料率は20.5%、事業費率は31.8%である)。

 

 日本自動車会議所の受け止め

 

 東京海上HDの「経営戦略」について、一般社団法人日本自動車会議所が、次のような見解を述べている。

 東京海上日動火災保険は2026年度までに、ディーラーなどの大規模乗合保険代理店への手数料体系を大幅に見直す。代理店が事実上できていなかった業務を同社が引き取り、その分手数料を減らす。同社が支払っている年間約4千億円の手数料のうち、300億円の削減効果があると見込んでいる。損保業界の一連の不祥事では販売力のある代理店に、営業上の配慮から業務の一部を代行する過剰な業務支援を行っているケースもみられた。これを正す。

 東京海上日動は「適切な保険募集体制の構築に向けて委託業務の範囲に応じて対価を支払う『保険会社分業モデル』等の新たな仕組み構築の検討を進めている」としている。例えば、保険に入りたい顧客の保険の見積りや、自動車保険の更新手続きなどをイメージしている。このような業務で、同社が代行した分を代理店への手数料から差し引く。 

 


 一律の手数料見直しは問題 

 

 東京海上日動は、「『保険会社分業モデル』に基づく代理店手数料体系は代理店の自立を促すのが目的」という。同社をはじめ大手損保は今まで、自動車ディーラーや企業別動隊代理店でのシェアを上げるため、自動車や企業の商品を購入する本業支援のほか、保険募集まで損保からの出向者が担当するなど、数々の便宜、利益を与えてきた。こうした相互の便宜供与、なれ合いを解消するというわけだ。

 一方で損保企業は、プロ代理店や中小代理店には、ポイント手数料体系を厳しく適用し、手数料を徹底的に抑えてきた。それが、多くの代理店の廃業につながっていることは間違いない。

 そうした自動車ディーラー・企業別動隊代理店とプロ代理店との不平等な手数料体系に対する反省もなく、お客様ニーズに応じた「ダイレクト型モデル」の普及やオムニチャネルの拡充を振りかざし、さらに「提供価値に見合った手数料体系」を名目に、中小代理店にまで適用すれば、それは手数料のさらなる減少につながり、代理店を廃業に追い込むことになる。それは損保産業が「国民のための損保」から、ますます遠ざかるだけでなく、損保企業の利益にも決してつながらないことを肝に銘じるべきではないか。

 

 *注 オムニチャネル 企業とユーザーの接点であるチャネルを、 EC(エレクトロニック・コマース)サイトなどのwebサイトだけでなく、メールやスマホアプリといったその他のオンラインの接点、さらには店舗などのオフラインの接点も含めて様々なチャネルを連携し一貫した顧客体験を提供し、ユーザーにアプローチする販売戦略。