損保経営者が薦めない本


  『国体論』集英社 

        

       

                岡本敏則

 


 白井聡氏(1977年生まれ 精華大学講師 専攻政治学)は本書の前に大きな反響を呼んだ『永続敗戦論』を出している。

 その要旨は「戦後日本の親米保守派はアメリカのアジアでの最重要の同盟者となることによって、第2次世界大戦における敗北が持つ意味を曖昧化すること、すなわち「敗北の否認」を続けた。敗戦の否認を続けるためには際限なくアメリカに従属せねばならず、際限ない対米従属を続ける限り敗戦を否認し続けることが出来る。負けを正面から認めたくがないために、永遠と負け続ける。親米保守派はこの原理を主体として、戦後日本を支配してきた」。

 氏の戦後論は、憲法学者長谷川正安の「戦後日本の法体系は日本国憲法法体系と、日米安保法体系の二つある」と、これまた大きな反響を呼んだ矢部宏治の『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』の系列にある。「日本国憲法法体系」の上に「日米安保法体系」があるという立場だ。

 氏はそのうえで「日本の戦後の国体は天皇制というピラミッドの上にアメリカを鎮座させたものだ」と断じる。戦前の国体は「神に由来する天皇家という王朝が、ただの一度も交代することなく一貫して統治しているという他に類を見ない日本国の在り方」というものだった。

 では戦後の日本は、「民主主義国として再出発した、という決まり文句によってアメリカ・デモクラシーへの敬意と愛着を装いながら、戦後民主主義を腐朽するがままに任せることによって内心でのそれへの軽蔑と嫌悪の念を満足させてきた。

 この二重構造の心理は、事あるごとに、日米は自由民主主義を共通の価値として奉ずるがゆえに緊密な同盟関係にある、と強調しながら、民主主義の重要な一部である新憲法を「みっともない」として安倍はじめ親米保守派が嫌悪していることにも表れている」「親米保守派は、日本は独立国ではなく、そうありたいという意思すら持っていない。

 ニーチェや魯迅が喝破したように、本物の奴隷とは、奴隷である状態をこの上なく素晴らしいものと考え、自らが奴隷であることを否認する奴隷である。本物の奴隷は、自分自身が哀れな存在にとどまり続けるだけでなく、そのみじめな境遇を他者に対しても強要するのである。現代の極右が、示威行動においてしばしば日章旗や旭日旗と一緒に星条旗を誇示していることにもそれは表れている。現代日本にとって、天皇とはアメリカであるという事実を物語っている。親米保守と異なる意見を持つものは全て「反国体」であり、星条旗への忠誠を誇ることは「皇道」なのである。