「AIG損保転勤廃止」を考える(その2)

なぜAIGが最初に…


前田功レポート

 

 前回(5月号)で、AIG損保が転勤廃止を打ち出したことについて、「サラリーマンの理想?」とサブタイトルもつけてお知らせした。

 こんな恰好のいいマスコミ受けする施策は、普通なら三井住友や損保ジャパンなど大手が真っ先に発表するのがこの業界の常。それをなぜ4位のAIG社が・・・というのが今回のテーマだ。 

 転勤は、終身雇用・年功賃金・退職金制度とセットになった日本独自の雇用慣習だ。夫が一人働けば家族数人の生活が成り立つという賃金水準も前提だ。しかし平成になった頃から終身雇用も年功賃金もそして賃金水準も怪しくなってきた。

 サザエさんは「時代劇アニメ」という話を最近聞いたが、サザエさんもフネさんも主婦専業なんてもってのほか、夫が40歳・50歳になっても妻も働かなければ家計が成り立たないのが今の現実だ。 

 みんな、家族や自分の個人生活に関していろいろ問題をかかえている。転勤を命じられて「困ったなあ」と思っても、いまの会社を辞めてうまく他の仕事につけたとしても今の給料水準を維持することは難しい。退職金の早期割り増しをもらっても引き合わない。そんなところが一般的だと思う。そんな中でも損保会社の正社員の労働条件はいい。昭和30年代に全損保が頑張ったおかげだ。(しかし、だんだん悪くなっている。)

 ただ一口に損保会社といっても、大手から中小までいろいろある。AIG社は三井住友や損保ジャパンなど大手と比べて、給料や退職金制度が劣っていた。転勤するくらいなら辞めたほうがいい。AIG社はそれくらいの待遇だったということだ。それが、今回の「なぜか・・・」の理由のひとつである。 

 もうひとつの理由はモバイルとノンモバイル、一見すると大手各社が10年位前からやっている「全国型社員と地域限定社員」と同じように見える。これらは総合職(男性のほとんど)・一般職(女性のほとんど)をほぼそのまま転換したものだったが、地域限定は転勤を忌避する総合職(だった男性)の逃げ場として使われてきはした。ただ男が未来永劫一般職では・・・ということで魅力がない。それで、制度としては地域限定社員でも部長にも支店長にもなれますということにはした。しかし実質はそうはなっていない。 

 AIG社にはこの地域限定という制度がなかった。AIGの社員たちには逃げ場がなかったのである。

 それが二つ目の理由である。

(次号に続く)