北健一「経済ニュースの裏側」


          PPE不足の意外な背景 


 コロナ禍では、医療現場での個人防護具(PPE)不足が大きな問題となった。防げたはずの感染で200~300人の医療従事者が死亡したイギリスで、その理由を探ったリサーチの内容を、トランスナショナル研究所(オランダ)の研究員、岸本聡子さんからうかがった。

 イギリスには国が運営する国民保健サービス(NHS)があり市民の健康を守ってきた。その下でなぜPPEの不足が起きたのか。

 調べていくと、病院の清掃、給食などの周辺業務や資材調達などで民営化が進んでいることがわかった。調達は、日本も含め220カ国でサービスを展開する物流大手DHLなどが落札していた。

 巨大企業が調達を担当すると巨大な力でPPEもかき集められそうだが、そうはならなかった。

 こうした企業は効率優先、ジャスト・イン・タイムで在庫を持たず、グローバル・サプライチェーンから最安値での調達を図る。平時には効率的なしくみだったが、コロナ禍のような危機の時には暗転する。

 岸本さんは「『効率化のため』に行われてきたことが非効率、不透明、無責任を生んでいた」と指摘した。

 日本の公立病院でも周辺業務の民間委託が広がる。大阪市ではPPEの代わりにカッパを集め物議を醸した。

 問題の一端が見えたのが、十三市民病院で働く委託労働者が松井一郎大阪市長のぶら下がりに遭遇し、市長を〃追及〃した一幕だった。「カッパはいりません。防護具を」との求めに「カッパでも、ないよりええやろ」と言い返し、松井市長はその場を立ち去った。

 やりとりの後、委託労働者は上司に呼び出され、神戸の病院への配転を告げられた(労使交渉中)。圧力や忖度(そんたく)はなかったのだろうか。

 十三市民病院は地方独立行政法人大阪市民病院機構の傘下にある。大阪の後を追うかのように、東京都も都立・公社病院の独立行政法人化を進めようとしている。めざすのは「ワイズスペンディング(賢い支出)」と称する効率化だ。

 余裕を持たない「効率化」は、危機がくるともろい。命を預かるしくみには不向きだという岸本さんの話にうなずきつつ、新自由主義という迷信の根強さに悩む。命を守るため、転換を急がなければ。