新型コロナとある「安倍友」企業


           北 健一の「経済ニュースの裏側」


 新型コロナウイルスの感染防止策をめぐって2月29日に開いた記者会見で、安倍晋三首相は唐突に、その薬の名を口にした。「現在、我が国ではいわゆるアビガンを含む三つの薬について、新型コロナウイルスに有効性があるかどうかを見極めるため……患者への投与をすでにスタートしています」と。「アビガン」とは、富士フイルム富山化学が製造する新型インフルエンザの薬である。

 時計の針を1カ月半ほど戻してみよう。国内初の新型肺炎確認が発表された翌日(1月17日)の夜、都内の老舗ふぐ料理店「下関春帆楼」に安倍首相の姿があった。会食の相手は、昵懇(じっこん)の仲とされる古森重隆・富士フイルムホールディングス(HD)会長ら。
 アビガンを作る会社は富士フイルムHD傘下だ。同社の株価(終値)は1月6日の5157円から3月2日には5394円まで上がった。首相会見が「お友達企業」に貢献したようにも見える。
 新型肺炎の治療につながることが期待される半面、アビガンの添付文書には、「因果関係は不明であるものの、インフルエンザ罹患(りかん)時には、転落等に至るおそれのある異常行動があらわれることがある」と記されている。
 よく似た例が米国にある。ブッシュ政権でイラク戦争を主導したドナルド・ラムズフェルド国防長官は、就任前、インフルエンザの薬「タミフル」の特許を持つギリアド社の会長だった。鳥インフルエンザや「生物テロの脅威」が高まるなか、政府がタミフルを大量購入。ギリアド社の株価は高騰し、大株主ラムズフェルド氏の資産も膨れた。
 しかもブッシュ政権は国防権限法を成立させる。ハリケーン、公衆衛生上の危機など非常事態の、軍を動員して治安回復と混乱鎮圧を図る権限を大統領に与え、同法成立後、ギリアド社の株価はさらに上がったとナオミ・クラインは『ショック・ドクトリン』(邦訳・岩波書店)で報告する。
 ラムズフェルド氏らは危機に便乗して権力を強め私腹を肥やした。その二番煎じなのか。