暇工作

      「生涯一課長の一分」


         不払い残業代も「黒塗り」方式


 「赤木ファイル」は公開されたが肝心な箇所は「黒塗り」だった。都合の悪いところは塗りつぶしていいのなら、なにが「情報公開法」だ。この世は、なんでこんなにインチキばかりはびこるのか。

 暇たちも同法に基づいて行政文書の公開を求めたことがある。それは、当時、厚労省が「613の企業が不払残業代81億円を支払った」と発表したが、そのなかに「大手損保会社の3億1千万円」が含まれていたからだ。

 「いったいどこの損保会社か?」暇たちは東京労働局へ具体的な企業名を問い合わせたが、回答を拒否されたので、情報公開法に頼ったのだった。

 そして、たしかに「開示文書」は示された。だが、それはほとんど黒塗りという代物だった。上記の写真がその文書だが、これでいったいなにを開示したつもりだろう。しかし、かすかな手掛かりはあった。「黒塗り文書」から当該損保社の本社所在地と社員数が読み取れたのだ。

 そして、そこから、その損保社は「三井住友社か日本興亜社(当時)のいずれか」であると推定できた。しかも、ちょうどその時期、その2社ともに社員のボーナスに「2万円」または「3万円」を上乗せして支給したという事実も判明した。どちらの損保社であっても、その「上乗せ金額」の合計がほぼ3億円程度になることもわかった。「ははあ、これが残業代の清算だな」とピンとくる。

 労働局に質すと、不払い残業代の清算方法は企業に一任しているという。つまり「不払い残業代」を「ボーナス」に変換しても、当局には何の異論もないというわけだ。

 それにしても2社が同じように「ボーナスに2万または3万円を上乗せ」して支給しているという偶然、社員数もほぼ同数、管轄労働局も同じ区内、という偶然が重なるのも珍しく、そのため当該社を特定できなかったのだが、不払い残業代3億円をその形で支払ったのは、三井住友か日本興亜のいずれか一社であるということだけは確定した。

 三井住友は暇たちの指摘に対し「当社ではない」と強く否定し、日本興亜は無視の態度だった。それぞれの反応から、ある種の心証は得られたが、それだけをエビデンスとするわけにもいかなかった。 

 本来は正当に支払うべき「残業代」を、労働局の指導があったにせよ、「ボーナス上乗せ」として、従業員に恩恵的に支給するとは、盗人猛々しい。労働組合がその「上乗せ」由来について問いただしたという話も聞こえてこない。チェック機能云々というより、あまりにも問題意識がなさすぎる。 

 しかし、もともと、労働局が黒塗りなどしなければこんな問題は起こらなかったはずだ。悪いのは「黒塗り」であり、権力側や企業の隠蔽体質である。そもそも、不払い残業代を清算したことは、決して不名誉なことではない。「改めるに遅すぎることはない」のだから、労働局が企業に忖度する理由とは一体何なのか。