「働く」はみんなのもの
ウーバーイーツな世界(7)
AIという名の雇い主
ジャーナリスト 竹信 三恵子
トランプ前米大統領の決めゼリフは「ユー・アー・ファイヤード(お前はクビだ)」。ここにはトランプという人の顔が前面に出てくる。だが、ウーバーイーツな世界には、雇い主の顔も責任も見えない。
就職はサイト登録で終わり、いつのまにかアカウントが停止されて「クビ」になる。そんな世界を支えるのがAIに代表されるコンピューターの存在だ。
こうした事象がいま、あちこちで起きている。
有給休暇は働く側に時季指定権があり、原則取りたい時に休暇を取れる。雇う側はやむを得ない場合だけ時季変更権を行使して断れる。JR東海で争われている有給休暇訴訟では、この「断る」作業をコンピューターによる抽選で代替する手法が争点の一つだ。
たくさん申し込みがあった場合、やむを得ない事情かどうかを審査するのでなく、「コンピューターでこうなった」とする。社員との紛争はこれで回避できる。
ウーバーイーツの人格なき雇用を求めて入職したという人もいる。職場の待遇格差などからハラスメントが増え、人間関係がややこしくなっているからだ。
だが、いざアカウント停止などで損なわれた権利を回復しようとすると、そうした気楽さはマイナスに転化する。そこでは人格のない相手の責任は問えないという錯覚が壁になる。
「AIの普及で失業が増える」という言説にも似た危うさがある。実はロボットを使って人件費を削減するのはAIではなく経営者だ。そこを見据え、ロボット税を失業者のために使うといった生存権ファーストの対応をすることは、今後一層問われてくる。
AIを口実に行う「人による搾取」を押し返す。ウーバーイーツの労働運動の重要性はそこにもある。