「働く」はみんなのもの
ウーバーイーツな世界(2)
自己責任に変える魔法の杖
ジャーナリスト 竹信 三恵子
ウーバーイーツな世界で使われる用語は、魔法のつえだ。それは、すべてを働く側の自己責任に変える。
まず、配達員は「配達パートナー」と呼ばれる。「対等な仲間」という呼び名によって、「指揮命令」は「働き手の自発的な行為」に変身させられる。
「パートナー」になるには「登録」する。これにより「就職」「採用」という雇う側の責任も消える。
「登録」のためのサイトを見ると、バイク、自転車といった配達に必要な乗り物が示される。作業の用具も自己調達ということだ。
後はアカウントを取得すれば仕事が始まるが、すべてが自由、自発的に見えて、そこにはちゃんと解雇もある。「アカウントの停止」である。
ネット上で、ウーバーイーツでの配達体験を紹介した「ウーバーのアカウントが停止してしまった話まとめ」(2018年7月17日/2019年3月22日)という記事を見つけた。
投稿者はある日、前触れもなくアカウントを停止される。あわてて足を運んだ「パートナーセンター」でスタッフから、ウーバー側が決めている配達の適正距離から外れる回数が最近多かった、と説明される。
つまり、配達中の走行経路を操作して報酬を釣り上げているとの疑いをかけられたらしい。
身の証しを立てるには、配達パートナーアプリで過去の配達記録などを自力で確認するしかない。しかも、同様のことがまた起きたらアカウントは永久停止と言い渡される。
雇用の世界の言葉で言えば、不正を疑われて根拠も示されないまま会社への出入り禁止を言い渡され、次に疑いをかけられたらクビと言われたということだ。
言葉ひとつで手軽に「労働権の保障」を回避できる世界が、そこにある。