暇工作「生涯一課長の一分」
ツイッター社とリンク
米短文投稿サイト「ツイッター」を買収したイーロン・マスク氏は「長時間、猛烈に働く」ことに賛同できないなら退職するよう迫るメールを社員に送ったという。メールに添付したリンクで「イエス」をクリックしなければ解雇すると通告している。全社員の半数の約3700人を解雇する方針だというから社内が大混乱に陥っているのも当然だろう。
実は、この「ツイッター」社の社内改革=リストラが、先月号本欄とリンクしている。先月号では、IT業界のある会社から退職を迫られたSさんが、個人加盟労組に相談している途中、会社側が現職保証の意思表示をしたことを紹介した。
そのSさんから「お礼に一杯付き合ってください」と誘われ、下町の居酒屋で歓談した。そのとき、Sさんから聞いたのがマスク氏との関りである。Sさんは「本当は退職一時金に目がくらんで、辞めようかと迷ったのですが、やはり現職に留まる決意をしてよかったです。わが社のリストラも、あのツイッター社のリストラに連なっているのです」と解説する。もちろん、Sさんはマスク氏に雇用されているわけではない。が、ツイッター社のマスク氏の方針と行動が、多くの関係会社に実際の事業上の関係だけに留まらず、陰に陽に影響を与えていて、Sさんの会社もSさん自身もその埒外ではないということだ。マスク氏が「ツイッター社」社員にメールで退職を迫ったと同様、Sさんに対する退職勧告もメールで行われた。それに対する本人の異議申し立てのやりとりもすべてモニター画面を通してだった。責任者とのfacetofaceのやりとりは一切設えられなかった。
Sさんの問題意識は、その手法がマスク的であるということだけではない。その中に流れている経営者の労働者観なのだ。マスク氏は自身が経営する電気自動車会社「テスラ」の会議室に寝袋を持ち込んで寝泊まりしながら働いたことがあるそうで、同様の思考と行動を労働者にも強烈に求める。まさに「長時間、猛烈に働く」ことこそ、経営者にも労働者にも同様に与えられた使命だと信じて疑わないのがマスク氏なのである。だが、経営者が猛烈に「働く」ことと、労働者が猛烈に「働かされる」ことは同義ではないとSさんは感じている。「なにかが、どこかがおかしい」と。
Sさんは自身が辞めなかったこと、迷いを吹っ切ったことを「よかった」と自己評価しているのは金銭的問題以外にも理由があるとすれば、その「なにかが、どこかがおかしい」ことを究めたいということではないか。彼は、働く中でマスク的思想と自己の生き方の矛盾点を見つめ、自らの立ち位置をあらためてはっきりさせ、自分をつくり直そうと決意したのではないか。
「すっきりしました」。別れ際にそういったSさん。見れば、大きなマスク(!)を外して晴れ晴れした表情であった。