暇工作「生涯一課長の一分」

             損保文化を担った人々


 戦争に直面しているときだからこそ、その対義である文化を思う。一人の損保マンを通して、損保が培ってきた文化について語ろうと思う。

 

 河津氏。ある代理店の顧問を務める。かつて損保会社の外勤社員であり、労働組合の委員長でもあった。「損保のなかま」へはときおり、「私はどちらかといえば自民党的だからね」と言いつつ鋭い批判的論評を寄せる。一方で編集委員会へのカンパを定期的に届けるという熱い心の持ち主でもある。

 「(かつての)全損保は好きだったけど、それでも一皮めくれば自分の保身だけに汲々としている言行不一致の人たちも結構いた。そこがイヤだった」とも。首尾一貫性がないひとが嫌いなのだ。イデオロギーではなく人間性で人を見る。

 河津氏は粋な文化人でもある。例えば「回文」。いつぞやは、「損保のなかま」の女性執筆者の記事への感想をその場で見事な「回文」にまとめて見せてくれた。

 

 河津氏だけではない。暇は、保険会社と契約者の間を繋いできた多くの扱者のことを思う。とりわけ、外勤社員制度を採用していたいくつかの保険会社では、人間味あふれる外勤社員・扱者が多く輩出された。みな豊かな知性とユーモアの持ち主だった。謙虚で、発想も偏らず、そしてなにより正義を重んじた。それらは多くの契約者と保険会社を結ぶ努力の過程で築き上げられたものだ。損保業界は、その制度を通じて人と人を深く結ぶ文化を豊かに醸成してきたのだと思う。

いま、その文化が衰退している。河津氏は言う。

 「私が現在の損保会社に感じている不満の一つは『効率化』なんです。『人員』『拠点』『商品』『サービス』全てです。保険は評価、料率、アンダーライティング(引き受け)ですが、これがめちゃめちゃです。これらは一人一人の契約者に対峙して、直接見て、聞いて成立する筈です。例えば、火災保険では、一人一人全部違いがあり、通販なんて無理です。家財は1人150万、3人家族で450万、建物は木造で坪50万、鉄筋で100万などと設定するなど無謀です。扱者の大事な『引受』は広い意味で、リスク把握、説明、物件の評価など契約者と相談して決めるべきものです」

 「私は付き合いの関係から5行くらいの銀行と取引しています。ところが、『拠点』がなくなって電車に走っていく羽目になってしまった。『自由化』とは『不自由化』だと思うわけです」

 「『商品』は分かりやすさが一番。ところが今は『複雑』と『混乱』のオンパレードです。働いている社員や代理店が毎日『豊かさ』『文化』を感じることが何より大切と思います」

 文化果てつるところ。荒野を彷徨するかのような損保の今を、河津氏は深く憂慮している。