北 健一 「経済ニュースの裏側」
ビッグ・テックが歪める民主主義
大企業とたたかう争議団がユーチューブチャンネルを開設し、生放送を始めた。だが、第1回放送の直後、番組が突然見られなくなった。問い合わせても返事はなく、原因はわからない。以前、コンビニ問題を取り上げた別のユニオンの放送が何度も消された。
ユーチューブを傘下に収めるグーグルに代表される巨大IT企業、ビッグ・テックは、この20年、存在感を増している。その「力」は利便性、効率性だけでは語れない。強い光とともに、暗い影が社会に広がり始めている。
NPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)共同代表・内田聖子さんのレポート「ロビイストから民主主義を取り戻す」(『世界』4月号)は、多数のロビイストや巨額の資金を用いて政策決定を歪(ゆが)め、規制ルールづくりを邪魔するビッグ・テックの内外での振る舞いを活写し、重要な問いを投げかける。
米国から欧州へ、ビッグ・テックのロビー活動は急拡大。2021年、GAFAM(GAFAとマイクロソフト社)が米国でロビー活動に約75億円を投じた。ビッグ・テックとEU関係機関との人材交流(回転ドア)も盛んだという。
内田さんは「最も懸念されているのが研究の独立性の問題だ」と指摘する。グーグルが資金提供するシンクタンクは、欧州委員会が発議した規制法案が通ると、欧州全体のGDPは年間850億ユーロ(11兆円強)もの損失を被る」との「試算」を公表した。「これはいわば『脅し』の戦略」にほかならない。
よく似た「研究」を思い出した。サラ金や商工ローンなど高利金融の被害が深刻化し法規制を求める声が高まるなか、貸金業界が資金を提供し、有名私大に研究所を設立した。研究所は「高金利を法規制すると資金不足が起き、日本のGDPが引き下げられる」といった論文を量産。政治家やマスコミにも働きかけを繰り返していた。
カネで買われた研究は幸いにも多重債務者救済をめざす努力をつぶすことはできず、貸金業法全面改正は全会一致で可決された。貸金業者は激減したが、GDPはもちろん下がらなかった。
ビッグ・テックの力はサラ金の比ではない。公共の利益と民主主義のためのたたかいは、欧米だけでなくこの日本でも、激しさを増している。