憲法審査会は改憲に前のめり

 

改憲問題対策法律家6団体連絡会事務局長   

       大江 京子弁護士に聞く


 

 国会の憲法審査会で「憲法改正」への動きが強まっています。改憲問題対策法律家6団体連絡会の事務局長で、衆院憲法審査会を傍聴している大江京子弁護士は「『改憲が当たり前』と言わんばかりの無法状態となっている」と述べ、警鐘を鳴らします。

 

 改憲原案提示へ急ぐ推進派

 

 大江弁護士は「審査会の雰囲気が昨年12月からガラリと変わった。理屈や道理が通らない雰囲気がある」と眉をひそめます。

 昨年秋の衆院選直後、日本維新の会の松井一郎代表が「参院選と同時に憲法改正の国民投票を行うべき」と発言し、国民民主党も改憲推進に転じました。

 従来は予算成立後に開催していたのが、今年は2月からほぼ毎週開催。与野党合意を踏まえた運営から、自民、公明、維新、国民が数を頼みに強引に運営を進め、改憲原案提示への地ならしに躍起になっていると大江弁護士は指摘します。

 これに対し、立憲民主や共産、社民など立憲野党側は、改憲をめぐる国民投票の際のCMやインターネットへの規制、国内外の資金規制をまず議論すべきと主張しています。大量の資金やフェイクニュースで世論がゆがめられる懸念があるためです。昨年の国民投票法改正では、付則で3年をめどにした検討が義務付けられていました。

 

 多数決の危険も

 

 改憲派は、この議論を避け、緊急事態条項導入や衆院議員の任期延長といった改憲項目について「(議論の)出口を」「多数決で」など、結論を急ぎます。

 大江弁護士は「主権者である国民を差し置いて、憲法尊重擁護義務を負う国会議員が改憲を主導することは許されない。なぜ憲法を変える必要があるのか、法律の制定や改正で済む問題ではないのかといった初歩的な議論もない。政権の憲法違反の実態には目をつむり、国民投票法改正の付則の宿題にも手を付けず、自民党改憲案を多数決で取りまとめようとしている」と厳しく批判します。

 

 理性的議論なくお粗末発言も

 

 見過ごせないのは、改憲派が示し合わせたかのように、野党筆頭幹事の奥野総一郎議員(立憲民主)を質問責めにし、態度表明を迫る審議のありようです。

 中でも自民党の細野豪志委員は1日に4回、維新の足立康史委員は同6回、「奥野さんはどう思うのか」「端的に答えよ」「逃げずに答えよ」などと矢継ぎ早に奥野氏に迫りました。足立委員は奥野氏に逆質問されると、応答を拒む支離滅裂ぶりです。

 大勢で寄ってたかって野党筆頭幹事を詰問し、自分たちの有利な方向に事を運ぼうという魂胆がみえみえだといわれています。

 大江弁護士は「数の力で立憲野党を脅すような審議であり、理性的な議論ができていない。改憲派は憲法を知らないお粗末な発言も多い。憲法審査会は与野党の立場を超えて合意に基づき運営するという慣例(中山方式)さえも踏みにじっている。国の最高法規である憲法をこのような乱暴なやり方で議論することは許されない」と批判します。

 

 参院選後に警戒を

 

 7月の参院選後は、大型の国政選挙がなく、改憲派にとって「黄金の3年間」ともいわれます。拙速で、冷静さを欠いた憲法改正審議に警戒が必要です。