真山  民「現代損保考」


                      

       円安・ドル高で大儲けのメガ損保だが…

                 

 3メガ損保そろって過去最高の大幅増益

 6月27日、メガ損保3社がいっせいに株主総会を開催した。総会にあたり、3社が発表した2021年度決算の主な指標は別表のとおりである。東京海上ホールディングス(HD)の「2021年度決算概要及び2022年度通期業績予想」と「東京海上グループの経営戦略」には、以下のように記されている。

 1.国内損害保険事業は、自動車保険の保険金の減少、新種保険などの大口事故の減少が、円安に伴う外貨建て支払備金の積み増しを打ち返し、事業利益で888億円増の2617億円で着地。

 2.海外保険事業は、TMHCC(*注1)など北米拠点を中心に、好調な引き受けにより、損害保険料は、対前年2561億円増、増収率で22%の1兆4206億円、生命保険料は115億円増、増収率で12.4% の1049億円という成果であった。海外保険事業利益は、生損保併せて2523億円、対前年1512億円増、対前年比プラス150%の増益であった。

 3.資産運用益は、インカムゲインは、海外子会社からの配当金が減少したが、政策株式(*注2)の配当金が増加、株式・債券の売却益(キャピタルゲイン)も円安による売却額の上振れで680億円増加して6498億円、率にしてプラス11.7%の増益を見た。

 4.以上の結果、最終の純利益は、対前年の2.6倍、2,586億円増えて4204億円となった。

 東京海上ほどではないにしても、SOMPOホールディングスもMS&ADホールディングスも、最終の純利益は、それぞれ対前年比でプラス57.9%、82%という大幅な増益を勝ち取っている。

 

 海外市場での損害保険料が国内の6割に迫る東京海上

 国内の損保市場は、今後大きな成長は見込めない。そこで、メガ損保は海外市場での損害保険事業を柱に、生保と資産運用益の拡大にも力を注ぐ。

 既に東京海上は、海外市場での正味保険料が国内市場の57.6 %に達し、SOMPOも海外損保正味収保が国内の46.6%、MS&ADは25.9%に達する。SOMPOホールディングスの新社長・奥村幹夫氏は海外利益の比率を、2024年末までに30%(2021年度は17.3%)、東京海上に至っては50%(同47.8%)まで高めるとしている。

             

 米金利のアップと物価高の損保への影響

 円安が加速を始めた3月以降、3か月で円はドルに対して20円も下落した。そうした矢先、FRB(米国連邦準備制度理事会)は27年半ぶりに0.75%の大幅利上げに踏み切り、6月21日には、一挙に1.45円も円安となり、1ドル136円まで下落した。

 メガ損保の運用先は、米国債を中心とした外国証券が3割前後を占めており、「金利が高くなった債券をタイミングよく購入すれば、投資収益を押し上げられる」(日経 2月14日)。円安ドル高は輸出企業と並んで、損保には儲けのネタなのだ。

 反面、円安にロシアのウクライナ侵攻の影響が相まって激しく高騰している物価、中でも木材、鉄鋼、セメント、電線、塩化ビニール管といった建設資材の高騰は火災保険などの保険金の増加につながり、収支の悪化を招く。こうした事態を想定して損保が打つ手は、いつもながら保険料率の引き上げだ。

 

 いくら儲かっても保険料の値上げを続ける損保

 「東京海上グループの経営戦略」は、「国内火災保険の収益改善」の「ドライバー」(推進手段)として、「過去・現在・将来のレートアップを含む規律あるアンダーライティング(保険の引き受け)」を挙げ、10月に「保険期間の短縮を含む商品・料率の改定」を実施するとしている。この改定は、昨年6月に発表されているものだが、具体的には、①個人向け火災保険料の目安となる「参考純率」を全国平均で10.9%上げる、②火災保険の最長契約期間を10年から5年に短縮(割安な10年契約の火災保険の廃止)が主な内容だ。

 火災保険料率のアップは、2015年10月から6年間にわたり3回も実施されたが、10月に実施値上げは平均10.9%という大幅なもの。海外でいくら儲けても、「国内で豪雨台風災害による多額の保険金払いのリスクがある限り、保険料のアップは続ける」という意思表示ととれる。損保もまた黒田日銀総裁にならって「契約者は火災保険の値上げを容認している」と言うつもりなのだろうか。メガ損保はいくら大儲けしても株主と役員には還元するが、保険料を下げる気はないのであろう。

 

 ※注1 TMHCC(TOKYO MARINE HCC)   米国、英国、スペイン、アイルランドに

     オフィスを構える国際的な専門保険グループ。

 ※注2 政策株式 様々な営業上のメリットありとして保有する株式のこと。

 

 

メガ損保・2021年度決算概要

   

 

企業名

事業分野

2021年度業績
(億円)

対前年増減額
(億円)

対前年比率
(%)

東京海上HD

国内損保正味保険料

24,672

 251

  1.0

 

海外損保正味保険料

14,206

2,561

22.0

 

国内生保新契約
年換算正味保険料

  519

  86

19.9%

 

海外生保正味保険料

1,049

115

12.4

 

資産運用益

6,498

277

16.3

 

純利益

4,104

      2,486

159.8

SOMPOHD

国内損保正味保険料

21,587

 173

   0.8

 

海外損保正味保険料

10,071

2,688

 36.4

 

国内生保新契約
年換算正味保険料

 269

  50

18.7

 

海外生保正味保険料

 

資産運用益

3,011

168

11.5

 

純利益

2,248

824

57.9

MS&ADHD

国内損保正味保険料

36,090

1,080   

 3.1

 

海外損保正味保険料

9,352

795

12.8

 

国内生保新契約
年換算正味保険料

269

6

2.5

 

海外生保正味保険料

174

177

 

資産運用益

2,061

399

24.0

 

純利益

2,627

1,184

82.0