なくせるか男女賃金格差


   

   情報開示だけでは不十分

 

  浅倉むつ子 早稲田大学名誉教授に聞く

 

 

   岸田政権の閣議決定を受けて厚生労働省はこのほど、従業員300人超の企業に対し、男女間の賃金格差の比率の開示を義務付けました。先進国でも最も遅れた男女間賃金格差の是正に有効なのか、この問題に詳しい浅倉むつ子早稲田大学名誉教授に聞きました。

 

●格差是正への第一歩だけど

 

 経済協力開発機構(OECD)の2020年のデータによると、加盟国の中で日本の男女間賃金格差は韓国、イスラエルに次ぐワースト3位。女性の賃金は男性に比べて4分の3の低水準です。

 厚労省は300人超の企業について、男性の賃金(残業代や賞与を含む)に対する女性の賃金の比率を把握し開示することを義務付ける省令などの改正を行いました。

 情報開示は「全労働者」「正社員」「有期・パート社員」ごとに男女の賃金比較を行います。7月以降、新たに事業年度が始まる企業から順次適用されます。

 この措置について、浅倉名誉教授は「長年の要求がようやく実現した。格差是正への第一歩といえる」と評価します。一方で、不十分な点も多いと指摘します。

 その一つが、格差の把握・公表の仕方です。正社員男性と正社員女性を比較するのは当然ですが、非正規の男女間の賃金差を比べても意味がありません。正社員の男性との比較が必要です。

 さらに「労働時間1時間当たりの賃金の差を示さなければ格差の実態は分からない」と苦言を呈します。

 

●「職務評価」が前進のカギ

 

 もう一つが、格差をどう是正するのかという方策が欠落していることです。

 浅倉名誉教授は「格差の調整を事業主に義務付けることが一番のポイント。まずは大企業に対し、不合理な格差を是正する数年がかりの計画を立てさせることが大切」と話します。

 そのために必要なことが「同一価値労働同一賃金」を法律に明記することと、国際労働機関(ILO)が提唱する職務評価を行うことだと強調します。

 職務評価は、それぞれの仕事を複数の職務項目に分け、「知識・技能」「責任」「負担」「労働環境」の四つの要素ごとに点数化します。職場と仕事をよく知る労働組合が関わり、時間をかけて分析し、結果を踏まえ賃金格差を少しずつ修正していくのです。

 カナダ・オンタリオ州では、女性が多くを占める女性職と、男性が多い男性職の職務を評価し、比較を求めています。両者の賃金に不合理な差があれば、是正しなければなりません。

 その際、賃下げによって格差を是正するのではなく、処遇改善による是正を義務付けています。

 職務評価による格差是正は欧米では原則。日本の厚生労働省も不十分ながらマニュアルを公表し、活用を促しています。

 

●格差解消へ本気の取り組みを

 

 世界経済フォーラムがこのほど発表した、2022年のジェンダーギャップ指数で、日本は146カ国中116位と、先進国で最下位クラスでした。政治参加の遅れに加え、収入格差、同一労働での賃金格差が指摘されます。

 男女間賃金格差の解消に向けて、本気の取り組みが求められます。