守屋 真実 「みんなで歌おうよ」

                     


 もりや・まみ ドイツ在住27年。ドイツ語教師、障がい児指導員、広島被ばく2世。父は元千代田火災勤務の守屋和郎氏 

                   


 私が住んでいる東京都練馬区は、11月6日09:45~10:25に弾道ミサイルの飛来を想定した住民避難訓練を実施すると発表した。主催は内閣官房、消防庁、東京都と練馬区である。場所は都営大江戸線練馬駅周辺と区立平成つつじ公園周辺。訓練項目は、住民の避難行動と地下鉄事業者などによる避難者の受け入れで、関係者と住民50人ほどが10:15から約10分間参加するという。いつどこで決められたのか、この50人がどうやって選ばれたのか練馬区のホームページからは不明である。発表されたのは10月13日だが、私の知る限りでは、ほとんどの練馬区民はこの訓練があることを知らない。

 

 なんという茶番!

 74万人いる区民のうちの50人が僅か10分訓練して何になるのか。大江戸線は地下鉄の中でも最も深いからシェルターとして有効かもしれないけれど、それだけ移動しなければならない距離が長いということでもある。一番避難の難しい障がい者や寝たきりの高齢者は参加するのだろうか。平成つつじ公園はただの広場で、あんなところで頭を抱えてうずくまって身を護れると思っているなら笑止千万だ。

 本当に市民の命と暮らしを守るつもりがあるのなら、自然災害に備えること、原発をなくすことの方がよっぽど重要だ。今年も全国各地で豪雨災害や竜巻などによる被害が続出した。あんなに無防備に54基もの原発を海岸線に並べておいて、何が安全保障だ。茨城県の東海第二がやられたら首都圏も放射能の雲に包まれる。若狭湾の原発群や柏崎刈羽、女川など、米どころの原発が破壊されたら食料危機に陥る。当然牧場や漁場も汚染されてしまう。フクシマは12年経っても廃炉にする方法すらわかっていない。市民を脅かしているのはミサイル攻撃ではない。

 要するに、政府も東京都も練馬区も本当は市民の命を守りたいわけではないのだ。いたずらに市民の不安を煽って、「やっぱり日本も軍拡したほうがいいんじゃない」という世論を喚起したいだけだ。食料自給率もエネルギー自給率も低く、人口が減り続けているこの国が戦争をしたら滅びるだけなのはわかりきっているのに。

 

 ガザとイスラエルの紛争で明らかになったことは、先制攻撃をしたら、その何倍もの報復を受けるということ。怒りと悲しみの果てしない連鎖を生み出すこと。そして最も被害を被るのは罪もない民間人だということだ。紛争地ばかりではない。すでにドイツでもフランスでもベルギーでも紛争に関連したテロが起きている。世界が密接に連動している今日、一国だけの平和や一国だけの安全はあり得ない。憲法前文にあるように「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、我らの安全と生存を保持しようと決意」する以外に生き延びられる道はない。そのためには、戦争に協力するのではなく人道支援に徹して、他国からの信頼と共感を得ることが最善の方法だと思う。

 今私たちがやるべきことは、逃げる練習ではない。逃げなくてもよいように、戦争を止めること、戦争が起こらないようにすることだ。ウクライナから、ガザからの悲惨な映像は、若い世代にも戦争のむごたらしさを身近に感じさせている。かつて私たちがベトナム戦争の写真や映像に心を傷めたように、彼らも戦争が勇ましいものではなく、殺人と破壊に過ぎないことに気付き始めている。

 不安の種は尽きないけれど、逃げてはいけない。目を背けてはならない。これ以上地球を壊してはならない。今こそ戦争したがる勢力に立ち向かおう!