斎藤貴男「レジスタンスのすすめ」
読売ジャイアンツの処遇格差と日本社会
さいとう・たかお 新聞・雑誌記者を経てフリージャーナリスト。近刊「『マスゴミ』って言うな!」(新日本出版、2023年)、「増補 空疎な小皇帝 『石原慎太郎』という問題」(岩波現代文庫、2023年)。「マスコミ9条の会」呼びかけ人。
夕刊紙『日刊ゲンダイ』(4月27日付)に、想像力をかき立てる記事が載っていた。今シーズンの読売ジャイアンツが振るわないのは、選手たちの処遇格差が大きすぎるからではないか、という。
日本プロ野球選手会が発表した球団別平均年俸は、6807 万円の巨人が4年ぶりにソフトバンクを抜いて、12球団のトップに立った。金満球団の面目躍如だが、にもかかわらず契約更改における満足度アンケートでは、あろうことか7位だったとか。
なぜか? 記事は他球団からの移籍組や外国人選手の厚遇に比べ、生え抜きの中堅や若手の出場機会が著しく少なく、飼い殺し同然にされているチーム事情を指摘する。
読んでいて、これは巨人だけの問題じゃないな、と感じた。近年の日本全体にも共通する陥穽(かんせい)だ、と。
世襲の金持ちと、他人のフンドシで巨富を得たIT長者らが闊歩(かっぽ)する一方、貧困に苦しむ人々が山ほど増えた。中間層が下へ、下へと追いやられ、社会が完全に分断されてしまったとは、もはや常識的な見立てである。
モチベーションが上がらないのも当然だ。それでも巨人のようなプロスポーツの世界は、本来的にウルトラ格差社会であって、選手たちは承知の上で飛び込んできている。ふて腐れて戦力外にされても、それで人生がオシマイになるわけではない。
だが、一般の社会がプロ球界と大差ない弱肉強食のジャングルにされてしまえば、どうなるか。理不尽にも格差の「下」のほうに追いやられた人間は、生きていく意欲そのものを喪失してしまう。となれば社会全体の衰退は必定だ。
移籍組や外国人選手に実力が伴っていないわけではないから、いずれ爆発して、巻き返しが始まるかもしれない。だが一般社会に奇跡はあり得ない。激しすぎる競争社会にブレーキをかけなければならない時期が来た。