昭和サラリーマンの追憶 

              

      

 

           前田 功


 まえだ いさお 元損保社員 娘のいじめ自殺解明の過程で学校・行政の隠蔽体質を告発・提訴 著書に「学校の壁」 元市民オンブズ町田・代表


 「シューカツ」に思う

 

  「シューカツ」と聞くと、筆者と同じ年代の読者は、「死ぬ準備のための活動」すなわち「終活」をイメージする人が多いかもしれないが、今回は若者の「就職活動」についてである。 

 報道によると、来春卒業予定の大学生の内定率は6月中旬時点で7割を超えているという。

 ただ、内定を得た人の4割超が、より志望度や待遇の高い企業を目指して活動を続ける意向だそうだ。

 

 今の学生の多くは、3年生の半ばから就活を始めるそうだ。そのため就職先をなかなか決められずに就活を続けた場合、大学生活4年間の内、1年半を費やすことになる。学業への阻害は大きい。 

 「採用活動の開始時期を自由化したら、就活が早期化・長期化し、学業の時間が侵食される」という懸念は昔からあった。その懸念から、経団連が協定して、採用活動の時期を遅らせたものの、協定を守らずフライングする企業が続出し、学生もそれに合わせて早くから活動することが多かった。

 また期間短縮によって内定が決まらない学生が増えて、結局、就職活動の期間は短くならなかった。かえって、学生側・企業側に焦りや混乱を生じさせただけとも言える。

 採用側にしても、100人に内定を出しても、最終的に入社してくるのは何人か予測がつかないというのが実態で、十分な人数を採れない企業も出てくる。 

 「青田買い」が「早苗買い」「苗代買い」「種もみ買い」と呼ばれるほど過熱し、協定は形骸化し、改定されたり廃止されたりを繰り返してきた。 

 解禁時期をどうにかすれば解決するという問題ではないようだ。 

 今の時代、企業の横並びの一斉募集に多くの学生が乗るのは、正社員という身分を得られる貴重な機会であるからだ。新卒時が正社員という身分を最も獲得しやすい。この機会を逃すと、その先、正社員になるのが難しく、そうなればいくら能力を磨いても、新卒時にその身分を得た人との処遇格差を埋めることができない可能性が高い。就活の開始時期をいつにしようが、ここが変わらない限り、学生が学業や大学生活よりも、就活を優先してしまうのは仕方がない。 

 それにしても、このところの就活戦線はあまりにもフィーバーし過ぎていないか? 

 これを加速させているのは、就活ナビサイト運営会社や合同企業説明会の運営会社などだ。集客のため、学生の不安をあおり、必要以上に学生を就活に向かわせている。 

 就活が上手くいかず、精神疾患を発症するものや就活失敗を苦に自殺に至るケースも発生していると聞く。 

 

 筆者が学生の頃は、のんびりしたものだった。

 就職は、「会社説明会」に出席するなどして学生が直接企業に接するのもありはしたが、ゼミの教授や大学の就職課からの推薦によるものが多く、今のように長い間、「就活」にエネルギーを割かれることはなかった。 

 筆者の場合、4年生の7月頃、ゼミの教授の紹介で某社を受験し内定を得た。その後、(話せば長くなるので省略するが)ある事情で内定を辞退した。そして、卒業直前の2月に、新聞広告で新卒追加募集をしていた会社を受験した。

 2月下旬、役員面接の際、「水泳部に所属していたが、自分のタイムも部の成績もたいしたことはない」と話したところ、「キミの学校で運動で強いのは何部だ。」と聞かれ、「スポーツで自慢できるほど強い部は思い当たらない。学生運動は強いが・・・。」と答えた。すると、「キミもアカか?」と聞かれた。「アカではないと思います。ピンクかもしれませんが・・・。」と答えた。

 まずかったかなと思っていたが、3月初旬に内定を得た。そして3月下旬、新入社員研修があった。「就活」をしたという認識はない。

  やはり、昔はよかったというべきか。