「働く」はみんなのもの
ジャーナリスト 竹信 三恵子
たけのぶ みえこ 朝日新聞社学芸部次長、編集委員兼論説委員などを経て和光大学名誉教授、ジャーナリスト。著書に「ルポ雇用劣化不況」(岩波新書 日本労働ペンクラブ賞)など多数。2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞。
家事労働とケア労働 (5) 軍拡の背骨
昨年来、「5 年間で43兆円」という異次元の軍拡予算が飛び出し、これに対する批判が高まっている。すかさず出たのが、「異次元の少子化」対策というケア労働支援策だ。
軍事は踏み込んだが最後、野放図な膨張を続ける。犠牲になるのが公的なケアだ。これをまともに行おうとすれば、膨大な資金が必要になる。金食い虫の軍拡とは両立不能なのだ。
そうした事実は、戦前の軍事予算の動きを見るとはっきりする。1894年の日清戦争で国家予算に対する軍事予算の比率は69・4%、1904年の日露戦争では81・9%、日米戦争が始まった41年には75・7%、敗戦前年には85・3%に達する。
ほぼ10年おきに国家予算の大半が戦費に投入される国で、保育園や介護サービスに公費などひねり出せる余地はない。これを支えたのが、女性をケア・家事などの無償労働者とするための「家」制度だ。「家」は公費を増やさずに再生産を可能にする「軍拡の背骨」だった。
だからこそ、新憲法制定過程で、政府は家庭内の男女平等を規定した憲法24条に対し、天皇制条項と同じくらい強く抵抗した。
軍拡予算が膨張を続ければ、子育てなどのケア労働への予算など出て来るはずがない。女性たちの無償労働負担はこれまで以上に膨れ上がり、反発は必須だ。
戦前と異なり、今は女性に参政権がある。だから、他の生活予算を流用してでも、児童手当の所得制限の撤廃など、「軍拡」と「公的ケア」は両立しうるという演出が急務となる。
しかし、それはあくまで「軍拡批判の火消し」のための一時のパフォーマンスだ。「軍拡」によって今後のケア・家事労働は激変していくはずだ。次回はその点について考えてみたい。