松久 染緒「随感録」


まつひさ・そめお 元損保社員、乱読・雑学渉猟の読書人で、歌舞伎ファン。亥年生まれ。        


        新しい「非武装中立論」へ

 

 「非武装中立論」といえば大昔の社会党の主張でしたが、ここに新しい提案があります。

 具体的には、① 現行の防衛省を「防災平和省」に改編し、陸海空の自衛隊を廃止して隊員を全員、防災と国境警備を一元管理する災害救助即応隊(Japan International Rescue Organization ジャイロ)に改編し、防災平和省に移籍する。 ② 日米安保条約を廃棄し、すべての米軍基地を日本から撤去し、米軍は帰国させるというものです。 

 (「自衛隊も米軍も日本にはいらない!」花岡蔚ハナオカシゲル著2023年5月)

 

 ところで、日本国憲法の第九条にはこうあります。

①   日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

②   前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

つまり「日本は平和国家で、戦争は一切しないし、できない。軍隊は持つことができない。」と国家の基本法である憲法で決めてあるのです。したがって、「本来日本は、新憲法のもと、非武装中立政策を基本とする安全保障政策を進めるべきだったのです。」ところが、東西冷戦下、朝鮮戦争を機に、警察予備隊、保安隊、自衛隊と、なし崩しに軍隊を保有・強化し、現在、日米安保条約一辺倒で米国の核の傘に頼り、唯一の被爆国であるのに原水爆禁止条約を承認しないという苦しい説明をしています。憲法制定から70年以上経過した今、政府は、台湾有事や北朝鮮の核の脅威をもとに国際情勢の危機感をあおり、国民の恐怖をあおって不戦・非武装の憲法9条を無力化して、軍隊のある「普通の国」にし、いざとなればどことでも戦争をできるようにしたいのです。そのため軍事費予算はそれまでのGDP比1%を二倍の2%に増額し、敵基地攻撃できるよう自衛隊を強化し、国会審議なしに2022年12月閣議決定で安全保障関連三文書を改訂して集団的自衛権の行使を掲げ、すでに戦争準備・戦争巻き込まれ内閣になっています。軍事費を増大させ軍隊を強化し敵基地攻撃力を備えれば、戦争にならないのでしょうか。それは抑止力にならないどころか、かえって戦争の口実になりかねません。万一戦争になれば、当事国はお互いに人的、財政的、思想的に際限なく軍拡競争を進め、すべてが戦争のためとなり、膨大な犠牲を払い破壊をこうむった結果、最後は国が破綻し、場合により消滅することになるのは第二次大戦で骨身にしみた通りです。軍拡競争は、最終的に利益を得る死の商人(国家を含む)を太らせるだけなのです。歴史に学ばないのでは、教養ある人間、良識ある国家とは言えません。

 

 軍隊をもたない国を攻撃するリスク(世界中の非難、制裁、世界からの孤立、交易禁止)を負う国はまずあり得ません。我が国は交戦権を持たないので、宣戦布告を受けることもできないのです。また、日米同盟の下では専守防衛はありえません。戦略的・戦術的に世界中で侵攻の実績と経験のある米軍はすべてを支配し、戦争になれば自衛隊は米軍の指揮下でいいように巻き込まれ、防衛のみならず侵略の片棒を担がされることになりましょう。米軍が守るのは米国の国益と米国民であり、我が国の国民と国益ではありません。外国の軍隊が常駐し、訓練でも演習でも国内の全地域を自由に利用できる国(日米地位協定)など世界のどこにもありません。米大統領や国務長官は、横田基地から通関なしに入出国しています。ふつうこのような状態を植民地といいます。なお、日米安保条約の期限は10年であり、解除通告後1年でいつでも消滅します。

 軍隊を持たなければ侵略されないとは言い切れませんが、万一外国の軍隊から攻撃された場合には、「防災平和省による非軍事初期対応及び国際機関への提訴、合わせて停戦交渉により紛争を交渉で平和裏に解決する」とともに、国民は我が国の主権と独立を自ら守る気概(場合によっては義勇隊に参加する)を示さなければなりません。

 非暴力で戦争を世界からなくす運動をライフワークとするノルウエ―移民でオハイオ大教授(元米空軍パイロット)のチャールズ・オーバビー博士によれば、「戦争とは、大義名分はどうあれ結局は軍需産業ビジネスへの貢献であり、軍需産業の集金力・集票力に依存して自らの名誉欲・権力欲を満たさんとする、志は名ばかりの政治家とあくなき利益追求に明け暮れる資本家との合弁事業に過ぎない」とし、「軍隊は国民一人ひとりの生命・財産を守るのではなく、支配階級に都合のいい統治機構を守るために存在する」と。

 そうであれば、軍隊を持たず、外国の軍隊に依存せず、自らの手で平和と独立を維持する新たな構想に立脚する選択しかありません。作者は、軍隊を廃止し「非武装永世中立国宣言」をした世界の具体例として、中南米の「コスタリカ共和国」をあげています。合わせて、具体的な「防災平和省と災害救助即応隊実現のロードマップ(国内世論の結集と新党の立ち上げ)」を掲げています。一方、国民投票で万万一憲法九条が無くなったら、北海道(旧蝦夷地)と沖縄(旧琉球王国)を合せた独立協和国で九条を維持する案まで考えています。それはともかく、日本全体の非武装中立構想は大いに参考になると思います。