真山 民「現代損保考」

       しんさん・みん 元損保社員。保険をキーに経済・IT等をレポート。


    「物流2024年問題」に損保はどう関わっていくのか 


 損害保険ジャパンとロジスティードの提携

 

 ロジスティード? この会社が何を手がけているかをご存知の人は物流業界にくわしいか、日経を毎日すみずみまで読んでいる人かもしれない。前身が日立物流と言えばお分かりのとおり、物流事業が主力の企業で、業界6位の座を占める。

 ロジスティード(LOGISTEED)という企業名は、ロジスティクス(logistics)から来ている。物流業界ではロジスティクスを「顧客の要求を満たすため、発注地点から消費地点まで効率的なモノの流れ、保管とサービス、それらに関連する情報を計画、実施、コントロールする過程」と解釈している。

 損保ジャパンがロジスティードとの提携を発表したのは、今年6月である。提携の目的は「物流業界2024年問題」の解決に向け、ロジスティードグループが展開するデジタルプラットフォーム「SSCV」(※)を活用した『物流業界の2024 年問題への対応』と説明し、さらにこう付言している。

 

 「物流業界の2024 年問題に対応するためには、デジタルを活用した業務効率化や、トラックドライバーが健康で安全に業務できる労働管理体制の構築、さらに発生すると大きなコストと時間がかかる交通事故の防止といったさまざまな対策を、2024 年4 月までに実施することが必要不可欠となっています。」

 

(*)SSCV Smart(DXによる物流・輸送事業の効率向上、法理順守)、Safety(Iot・AIを活用した運行上の安全性向上)、Vehicle(車両管理、車両整備の最適化 故障予兆・予防整備)を組み合わせた輸送事業支援のデジタルプラットフォーム(IT技術やデータ等を用いてシステムやサービスを提供し、そのサービスを享受する場)

 

 損保ジャパンとしては、SSCVを活用し、物流・運輸業者を支援、トラックドライバーの安全確保、業務効率化、法令遵守、持続可能な経営などさまざまな課題のソリューションを提案し、物流・運輸企業の保険契約の拡大と事故防止につなげ収益拡大を図る狙いだ。

 

 三井住友海上は「置き配」の盗難の補償の保険商品

 

 三井住友海上はベンチャー企業と組んで荷物の盗難被害を補償するサービスを始めると発表した。輸送ドライバーの長時間労働の一因でもある再配達の削減と切り札と期待される置き配の不安払拭を狙い、オートロック住宅向けの置き配システムを手掛けるライナフ(東京)と連携。玄関先などあらかじめ指定された場所に配達された荷物が盗まれた場合1万円を上限に代金を補償する。保険料は荷物の数に応じて年間10万円からの予定で、運送会社が負担する。初年度100社の加入を目指すという。

 

 物流2024年問題とは何か?

 

「2024年問題」とは、2019年4月に施行された改正労働基準法に盛り込まれた時間外労働の上限規制を免除されていた建設業・運送業・医師に対し、来年4月から残業上限規制が実施され、今までのような長時間労働させることができなくなるうえ、労働力不足も重なって業務遂行が困難になる事態を指す。 

           (出処 日本経済新聞電子版 9月7日)

 

 

 物流・運輸業の長時間労働、人手不足、賃金

 

 物流・運送の「24年問題」を語るには、労働時間・人手不足・賃金について述べる必要がある。まず、労働時間だが、全日本トラック協会の「トラック輸送データ集 2022」によれば、道路貨物運送業の年間総実労働時間(2020年)は2,112時間で、製造業の1,908時間に比べて200時間、全産業平均の1,709時間に比べて500時間以上長い。

 労働力はどうか?総務省統計局ホームページの「日本の統計2023」にある「産業別就業者数」によると、2019年から2022年の3年間で、運輸業は348万人から352万人と増えてはいるが微増で、後述するように深刻な労働力不足に対処できる人数ではない。「トラック輸送データ集」にある「トラック運送事業就業者数の推移」をみても、輸送・機械運転者数は、2005年の78万人から2021年の84万人と、17年間で6万人しか増えていない。

 賃金も見劣りする。「日本の統計2023」の「月間賃金現金給与額」によると、運輸業・郵便業は男性が33.9万円、女性が25.1万円で、主要産業の平均賃金と比較すると、男性が3万2千円も低く、女性が1万9千円低い。営業用大型貨物自動車のドライバーでも、企業数の大半を占める従業員10~99人の企業のドライバーにきまって支給される現金給与額は34.4万円に過ぎない。

 

 日本の輸送量の60%を担う営業用トラック

 

 長時間労働、人手不足、安い賃金のもとでも運輸業の仕事量が減っているわけではない。営業用トラックが運ぶ貨物の重量は、平成元年(1989年)に20億トンを突破(22億9100万トン)、2010年には30億トンに達した。2020年にはコロナ不況から25億5100万トンに落ち込んでいるが、それでも営業用トラックによる輸送は、自家用トラック・鉄道・海運・航空機輸送を含めた全輸送量41億3300万トンの60%以上を占め、日本の物流の中核を担っている。

 

 押し寄せるドライバーの高齢化と運送会社の倒産

 

 日本の物流・輸送の中核を担う営業用トラック運転手の労働環境は、労働時間・人手不足・低賃金と、どれをとっても厳しい。そこに加えてドライバーの高齢化の問題がある。「トラック輸送データ集」の「道路貨物運送事業規模別平均年齢」によれば、企業の規模別に、従業員5〜9人企業の男性の平均年齢は51.8歳、10~99人で49.9歳、100〜999人で47.6歳、1000人以上で44歳と、小規模企業ほど高齢化が進んでいる。その深刻さは、厚生労働省のデータ(2019年)の全産業の就労者の平均年齢43.2歳に比べれば一目瞭然である。

 こうした物流・輸送会社の経営環境の厳しさは倒産数の増加にも表れている。帝国データバンクがまとめた2022年度上半期(4〜9月)の企業倒産集計によると、トラック運送(一般貨物自動車運送)業界の倒産件数は99件となり、前年同期(65件)から1.5倍に急増し、過去5年間で最多を更新した。

 

 中小の物流運輸企業も享受できる対策を

 

 物流輸送業界に対する残業規制の適用を来年に控え、あたふたしている日本。人手不足から25年度で14万人の運転手が足りず、13%の物が運べなくなり、物流の停滞による需要減で、30年には国内総生産(GDP)が10兆円押し下げられるとの試算もある(日経10月30日)。倒産も増えるだろう。

 

 これに対して、政府や企業はロボットやドローン、自動運転車やダブル連結トラックによる配送、鉄道・船舶便への振り替えといった技術面と、一部の橋で大型トレーラーなど特殊車両の走行時間を交通量が少ない時間帯に広げる、都市を結ぶ高速道路の中央分離帯などを舗装し、自動運転カートで荷物を運ぶ、といった法的な緩和策を進めている。さらに、食品、日用雑貨などの荷主や物流企業も加わり、全42社による新しい「輸送シェアリング」の仕組みづくりが進んでいる。そうした様々な対策が安全面で問題はないのか。また大手の物流輸送企業だけでなく、中小の企業も享受できる対策なのか注視していく必要がある。そのことは顧客に多くの中小の物流輸送企業を抱える損保の対策にも言えることである。