春闘の景色変えた非正規の声
ジャーナリスト 東海林 智
非正規労働者を中心にした2024年春闘を取り組もうと、共闘組織「非正規春闘実行委員会」が12月4日立ち上がった。実行委員会の結成は昨年に続く取り組み。23年春闘では〃満額回答〃が相次ぐなど久々に賃上げが注目された春闘だったが、その中で非正規春闘も独自の存在感を発揮していた。実行委員会は2年目の闘いをどう打ち出したのか。
実行委員会は、非正規労働者らを多く組織する個人加盟が中心の労働組合で構成。東京都内で活動する全国一般東京ゼネラルユニオン(東ゼン労組・連合系)▽首都圏青年ユニオン(全労連系)▽全国一般東京東部労組(全労協系)、総合サポートユニオン(独立系)などがナショナルセンターの垣根を越えて実行委を結成した。また、北海道や宮城、新潟、名古屋、大阪など全国各地から計20労組(前年は17労組)が参加している。総合サポートユニオンの青木耕太郎共同代表は「一人でも賃上げを求め、声を上げることはできる。一緒に賃金を上げよう」と呼びかけた。
この日公表した実行委の春闘方針は、(1)一律10%以上の賃上げ(2)正規と非正規の均等待遇(同一価値労働同一賃金)(3)全国一律最低賃金1500円の即時実現――を要求する。賃上げ要求は前年の10%に「以上」を付け、要求を強化した。同じように「5%以上」とした、連合の倍以上の要求となる。
実行委は「物価上昇が続く中、生活できる賃金はいくらかを考えれば10%でも足りない人もいる。生活実態から要求を考え『以上』をつけた」と説明した。別の実行委員は「生活はこれ以上切り詰められないぐらい切り詰めた生活をしている。大きな賃上げは切実な願いだ」と話した。
また、23年春闘の実績も報告した。飲食店やスーパーなど36社と賃上げを求めた団体交渉を実施。ストライキをしたり、協力して会社の前で宣伝をしたりして、16社から有額回答を得た。都内の飲食店で時給200円(17%)▽スーパーで非正規労働者9千人に5.44%▽靴販売店で同5千人に6%――の賃上げなどを実現した。24年春闘では、要求、実現の輪をさらに広げたいとしている。
● 問われる労働者の連帯
今春実行委員会が立ち上がった時、大企業労組の春闘の取材に力を割くメディアの多くは冷淡だった。少数の、場合によっては1人の組合員しか組織していない合同労組の影響力を考え、取り上げるに値しないと考えたのだろう。その判断を愚かだと言う気はないが、筆者はそうは思わなかった。たとえ少数であっても、勇気を持って〃非正規の声〃を上げた者たちは春闘の景色を変えうると思った。
結果は前述した通り、大きな成果を上げたケースもあった。そして今回、NHKは実行委結成の会見を夜のニュースで報じた。
「要求なければ回答なし」は言葉の遊びではない。23年春闘で、寒風にさらされながら東京・大手町の経団連前で彼らは訴えていた。「春闘で賃上げをやるのなら、私たちの声を聞け。非正規の声を聞かずに非正規の賃金を決めるな」。声を上げ、行動することこそ力なのだ。
とはいえ、膨大な非正規労働者の数を思えば、大河の一滴にすら足りていないのは事実だ。ナショナルセンターをはじめ正社員を中心とする組合が、彼ら彼女らにどんな支援や共闘ができるのか。まさしく労働者の連帯が問われている。