昭和サラリーマンの追憶 

              

      

 

           前田 功


 まえだ いさお 元損保社員 娘のいじめ自殺解明の過程で学校・行政の隠蔽体質を告発・提訴 著書に「学校の壁」 元市民オンブズ町田・代表


 「使途の公開」と「残金返還」の話はどうなった?「調査研究広報滞在費」に思う

 

 国会議員の歳費は、月額130万円弱。それに賞与が635万円。年間2,300万円。これを高いと思うか。低いと思うか。ひとそれぞれだろう。

 最近のことは知らないが、現役当時、大手生保の友人(部長クラス、50歳代前半)は月給とボーナスで年収2,000万円を超えていたという。大手損保でもそうだったのだろう。

 ただ、国会議員には「第2の給与」がある。「調査研究広報滞在費」(旧「文書通信交通滞在費」)である。月額100万円、年1,200万円。使途を公開することもなく、使いきれなく ても返納しなくてよい。税金や社会保険料もかからない。 

 これが世間の注目を集めたのは、2021年の衆院選。投開票日が10月31日で、当選した新人は在職1日にもかかわらず、10月分を満額受け取ったと批判された。解散が10月14日だから、新人でない議員も、半月足らずの在籍で満額受け取っていたのだが、それはあまり報道されなかった。 

 批判に応えて、2022年4月の国会で、当面の対応として「日割り支給」に変更するとの名目で、「国会法」と「国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律」を改変した。腹立たしいのは、これに乗じて、「公の書類を発送し及び公の性質を有する通信をなす等のため」と定めていた「目的」を、「国政に関する調査研究及びその広報、国民との接触及び交流、滞在等の議員活動を行うため」に変えたことだ。

 大手マスコミはあまり報道していなかったが、名称だけでなく、「目的」を変更し、使途拡大を図っているのだ。

 

 今までも、不正に、支持者らとの飲食や私設秘書の給与など、「目的」」に反する支出が多いと批判されてきた。個人的に銀座のクラブで飲んだ費用は、従来は違法であったが、クラブのホステスも国民という理屈で、「国民との接触」だとしてOK。選挙の事前活動として支持者らへ飲ませ食わせもOK、にしようという魂胆がありありだ。 

 実態に合わせたということだろうが、実態自体が世間の常識・倫理から外れているのに、それに合わせたのだ。お手盛りとしか言いようがない。

 与野党を問わず「おいしいお小遣い」だけに、攻撃側の野党も多くの議員は「助かった」というのが本音なのだろう。与党より資金難の野党議員にとって、旧文通費はある意味で「貴重な選挙資金」だ。余った分は返却しなくていいので、次の選挙資金として貯蓄している議員もいるという話も聞く。「野党だから改革に積極的」とはならないのだ。 

 法律を改変するのは国会議員だが、その議員の処遇を彼ら自らが決めるというのは納得がいかない。

 

 「日割り支給」なんて小さな問題だったのだ。最重要ポイントである「使途公開」と「使いきれなかった分の返納」については、会期内に結論を得ることとなっていたが、それから1年余り。改革は全く進んでいない。議論している様子すら見えない。 

 制度の透明化のためには、領収書の添付、そしてその公開が必須だ。しかし、それでも、不正は続くと思う。

 

 それで思い出すのだが、国会議員の文書交通費とよく似た制度で、市議会議員など地方議会の議員に支給されているものに、「政務活動費」がある。 

 2000年ころだったと思うが、自分の住んでいる市の市会議員の政務調査費(2013年からは政務活動費と呼ぶようになった)を情報公開請求し、その使用実態を調べたことがある。市民オンブズマンとしての活動の中でのことである。

 私の住む市では、1人月6万円(年72万円)が議員に支給されている。

 領収書の金額欄に32万円余り、その下の明細欄はガソリン代となっていた。そして領収書を発行したガソリンスタンドの名前があった。

 ガソリン代32万円なんてえらくデカい数字なので、なぜだろうと思って、その男性議員の家に電話をかけた。奥さんが出てきた。こちらが、「ご主人は、政務調査費で32万円ものガソリン代を支払っているのですが、どういう調査をしていたんですか?」と尋ねたところ、「夫は、議員でもありますが、別の商売もしています。ガソリンをツケで買ったりしていません。何かの間違いです。私のところは、ガソリン代に政務調査費なんか使っていません」という答えだった。

 領収書の名義のガソリンスタンドに行き、領収書のコピーを見せたところ、「この領収書の書式は、昔、ウチで使っていた書式ですが、今はこんな手書きの領収書は一切出していません。この数年、領収書はすべてレジ打ちですから」との話だった。

 何らかの細工をして、領収書を偽造していたのだと思う。奥さんに内緒のヘソクリを捻出していたのかもしれない。(奥さんにこっぴどくとっちめられたと想像される。その議員は次の選挙には出なかった。)

 他にも、東名高速横浜インターと中央高速八王子インターを、同じ日に8分違いで通ったレシートが添付されていたのもあった。他人からもらったレシートを添付していたとしか考えられない。

 領収書の添付が義務付けされ、それが公開されると、こういうことが明らかになってくる。

 

 私は訴訟にはしなかったが、現在も、各地の市民オンブズが、私と同じような問題意識で、調査しており、訴訟にしているケースもある。その報告によると、あいかわらず、不正な使用が見られるそうだ。それでも、地方議会では透明度が進み、6割程度までがネットで公開されている。  

 国会議員についても、領収書の添付は野党の提案にある。ただ、領収書添付だけでは、不正は続くだろう。誰でも何時でもチェックできるように、ネットでの公開が必要だと思う。