暇工作「生涯一課長の一分」
ひま・こうさく 元損保社員・現在個人加盟労組アドバイザー
たたかう年金者たち
暇の友人が言った。「フランスあたりじゃ、年金制度改悪がどうのこうのと、労働者が街頭に出て暴れてるそうじゃないか。でも、ある意味、羨ましいよ。俺なんか、国民年金の保険料を支払うゆとりなんてないし、そもそも、オレは日本の年金制度を信頼していない。年金生活なんて夢の夢さ」
この友人、日本の年金制度の本質的問題を鋭く突いている。国民年金保険料の滞納理由の71.9%が「経済的に苦しいから」だ。国民皆保険の理想はいまや画餅だ。フランスの年金デモは、政府が一度決めた年金額を値切ろうとすることへの怒りだ。「約束が違うじゃないか!」と。
だが、「約束が違うじゃないか!」は、日本の年金制度でも同様なのだ。一度決められた水準が政府の都合で切り下げられている。これに対し、メディアが「平成の老人一揆」「死ぬまで減る年金に怒りの違憲訴訟」などと報じたように、日本では、年金者組合が裁判に立ち上がってたたかっている。
「国はいったん決めた年金支給額を後になって引き下げることが許されるのか?」
「これは憲法違反ではないか?」
こう問いかける訴訟が始まったのが2015年。立ち上がった原告は5,000人を超える。そして、このたたかいは、いわゆる年金生活者の生活と権利だけの問題として位置付けられているわけではなく、さらに深いテーマを併せ持っている。
「暇さんのご友人のような疑問、問題意識は、日本における安定した国民皆保険の確立こそが喫緊の課題だということを教えてくれています。保険料ナシで、つまり国の負担で受け取れる公的な基礎的年金としての『最低保障年金制度』が必要なのです。私たちは年金裁判に並行してこのテーマを追求しています」
こう力説するのは、かつて、三井住友海上に勤務していた宇佐美忠利さんだ(写真)。定年後の現在は年金者組合埼玉県本部委員長として活躍する。
『最低保障年金制度』が出来れば、国民年金保険料の徴収も必要なくなり、無年金や低年金問題が解決する。また、年金受給権をめぐる複雑な申し立て手続きも不要になる。年金事務所などの人権費も大幅にカットされるという国にとってのメリットも大きい。悪いことは一つもない。この提案は、税金の使い道を、例えば軍事費を少しばかり削るとか、僅かな工夫で実現できる。しかも、現行の国民年金と厚生年金制度はそのまま二階部分として使えばいいわけだから保険料負担の公平性も確保できる。年金制度への信頼感が増すということは、政府への信頼も深まるということなのだ。内閣支持率だってアップ間違いなしだろう。
「メリットはまだありますよ。高齢者の購買力が上がるでしょ。日本経済と地方経済の活性化に貢献できます」
宇佐美さんの言葉にさらに力がこもった。