守屋 真実 「みんなで歌おうよ」
もりや・まみ ドイツ在住27年。ドイツ語教師、障がい児指導員、広島被ばく2世。父は元千代田火災勤務の守屋和郎氏
奇妙なエール交換
6月の金曜日、いつものように首相官邸前でスタンディングの準備をしていると別の団体がやって来た。以前にも何度か来た国守衆だ。
ホームページを見ると吉田松陰などが引用され、日本の伝統や文化、「日本のこころ」を守る、その象徴が男系男子による皇室の継続であると言ったことが書かれている。以前は選択的夫婦別姓に反対していたし、この日はLGBT法案に反対するために来ていた。ネットの情報をもっと読むと「腐敗堕落した自民党」という言葉も見られ、アメリカ依存の政治を批判して岸田政権の退陣を求める行動もやっているらしい。消費税には反対で、軍拡増税も反対。でも防衛のための核武装は推進。どこからお金が出ているのか知らないけれど、そろいのTシャツや帽子、たくさんの大きな日の丸や幟旗、大出力の音響機材などを持って来る団体だ。
私たちが毎週金曜日の3時から4時までスタンディングをやっているのは知っているはずなのに、自分たちが4時から行動したいから3時半でやめてくれないかと言ってくる。口調は穏やかだったけれど、あまりにも厚かましいので「5分なら譲歩してもいいけど、30分はできません」と断る。もめ事が起きると思ったのか、警備の機動隊員が近くに寄って来て話を聞いている。ちょっと緊迫。「妨害にならない範囲で準備を始めて下さって構いません」と言うと、彼らは早速日の丸を掲げ始め、私たちは私たちで歌い始めた。
自然といつもより声に力が入る。偶然にも不定期参加の男性4人が少し遅れて来てくれた。これでこちらは11人、有難い。こういう時は一人でも仲間が多いと心強いものだ。休まず次から次へと歌い続ける。
歌の合間に「辺野古新基地建設に反対することは、アメリカ言いなりの政治をやめ日本の主権を確立すること。憲法9条に明記された平和主義を貫くこと。地方の自治権を尊重すること。その意味で、東京に住む私たちにとっても他人事ではありません」と通行人に呼びかける。ちょうど通りかかった精神障がい者の権利ために活動している人たちが怪訝そうな顔で見ている。「あちらの方たちとは別のグループです」と話すと、事情を察してくれたのか声援を送ってくれた。確かに不可解な光景だろう。日の丸が林立するすぐ隣で戦争に反対する歌を歌っているのだから。いつものレパートリーを歌い、「日本のどこにも基地はいらない!」、「沖縄を再び戦場にするな!」、「軍拡増税をやめて市民の暮らしを守れ!」とコールして行動を締めたら、ちょうど3時59分だった。
リーダーらしき人が、どんなグループなのか、いつからやっているのかなど尋ねてきた。会員登録も規約も何にもない自発的な集まりだけれど、土砂投入が始まって以来4年半続けていると話したら、思いがけず「偉いね!」と言われた。こちらからもスポンサーがいるのかなどと尋ねたら、「いません。全部自分たちでやっています」と誇らしげに答えた。今年一月に亡くなった一水会の鈴木邦男氏も興味深い人だったけれど、やっぱりこういう保守の人もいるんだなあ、と言う感じ。最後は「お互い信じるところに従って頑張りましょう」と奇妙なエール交換になった。これぞ民主主義?
終わったら、いつもよりずっと疲れたと感じた。無意識にかなり緊張していたのだろう。違和感があるのは否めないけれど、世の中には様々な考えの人がいるのだし、いなければおかしいのだ。できるならば、軍拡増税反対の一点だけでも協力し合えたらいいなと思う。理念も矜持もなく民主主義が破壊されている今、保守の人々とも尖らずにゆとりを持って話せるようにならなければならないと思った。