観客のための試合時間館短縮を!メジャーを見習え


           玉木 正之        


 たまき・まさゆき スポーツ文化評論家,日本福祉大学客員教授。著書に『スポーツとは何か』(講談社現代新書)など多数。近刊は「真夏の甲子園はいらない 問題だらけの高校野球」(編・著、岩波ブックレット、2023年)


 エンゼルスの大谷翔平投手は、「サイン伝送無線装置(ピッチコム)」を使っている。ユニフォームの袖口に取り付けたボタンを押すと、捕手のリストバンドの受信機に投球の球種やコースが伝わり、さらに投手の帽子と捕手のヘルメットにある極小マイク兼スピーカーで会話も可能というスグレモノだ。

 大リーグは今季から「投球時間制限(ピッチクロック)」を導入。投手は走者ナシで15秒以内、走者アリで20秒以内の投球が義務化されたため、大谷投手もサイン交換の時間短縮を狙ったわけだ。

 が、「サイン伝送無線装置」は、1980年代に日本のスポーツ用品メーカーが既に製作していた。にもかかわらずプロ野球で使われなかったのは、何人かの監督が「妨害電波で使えない」と言ったからだった。

 当時のプロ野球は、「スパイ野球」と呼ばれる「サイン盗み」が横行。外野席やスコアボードから捕手のサインを盗み見て、次の投球の球種やコースを無線で打者のヘルメットの耳当てに付けられた超小型スピーカーに伝える、といった行為が行われていた。

 そこで考えられたのが投手のグラブと捕手のミットに取り付けた「サイン伝送無線装置」で、3種類のボタンで3色の極小電球が点滅。7種類の球種と上下左右のコースが伝わる電子機器だった。が、プロ野球の「スパイ野球」は、妨害電波を出し合うほど「進化」してしまっていたのだ。

 ここで注目したいのは、日本のプロ野球は自分の球団が勝つために「サイン伝送無線装置」を作ったこと。一方、メジャーリーグは試合時間短縮のため、つまり観客(

ファン)のために「ピッチクロック」のルールを作り、「ピッチコム」の使用を許可したのだ。この違いは大きい。日本のプロ野球もメジャーを見習ってほしい!