松久 染緒「随感録」


まつひさ・そめお 元損保社員、乱読・雑学渉猟の読書人で、歌舞伎ファン。亥年生まれ。        


                                       セイフティネットのクロージング 

          

 保険会社が万一経営破綻した場合に保険契約者を保護する仕組み(セイフティネット)として、保険業法によって規定された保険契約者保護機構があります。自動車保険や火災保険などを扱う損害保険会社が破綻した場合に保険契約者を保護するのが、損害保険契約者保護機構であり、生命保険契約者の場合が生命保険契約者保護機構(以下「機構」)です。

 保険契約者を保護する具体的な内容は、破綻した保険会社の保険契約を受け入れる救済保険会社がある場合には、保険契約の引き受けや移転などに対して機構がその資金援助を行い、救済保険会社が現れない場合には、機構自体が保険契約を引き受けたり、保険契約を承継するための子会社を設立したりして、保険契約の継続を図ります。

損害保険の場合は、そのための資金として機構の一般勘定に500億円の保険契約者保護資金があり、生命保険の場合は、資産規模が損害保険に比べて相当に大きいため、同じく一般勘定に4,000億円の保険契約者保護資金があります。いずれも機構の会員保険会社が拠出したもので、現時点で、各機構の定款に規定する保険契約者保護基金の積み立て限度額を満たしております。

 ところで損害保険契約者保護機構では、2000年5月に経営破綻した第一火災海上保険相互会社が保有していた保険契約を引き受ける保険会社がなかったため、2001年4月以降、機構が引き受け、保険特別勘定として管理本部を設置して当該保険契約の管理及び処分に関する業務を行っております。

 機構が引き受けた2001年4月現在の保険特別勘定の資産は9,490億円、負債は9,787億円で、297億円の債務超過でした。経営破綻した2000年5月当時の債務超過額は1,329億円であり、この間、保険管理人による経営管理のもと、保険契約の引き受け保険会社の選定や、経営責任の追及などが進められましたが、最終的に保険管理人は承継保険会社を選定できず、保険契約者は満期返戻金及び支払保険金の10%削減を余儀なくされ(約1,000億円の負担)、資本(第一火災は相互会社であったため基金)の拠出者には約400億円の損失負担を求めた結果、債務超過額は大幅に圧縮され、機構が39億円の資金提供をして保険契約を引き受ける結果になりました。 

 

 その後、2023年3月現在の保険特別勘定の現状は、資産が13億円、負債が109億円。96億円の債務超過となっています。その内訳は、資産は現預金が12億円、負債は支払備金が16億円、責任準備金が92億円となっています。機構移転からすでに22年経過した結果、ほとんどの保険契約は満期消滅し、超長期の火災保険のほか介護費用保険の契約にかかる責任準備金が残っていると思われます。これだけわずかな資産・負債をコストをかけて機構で引き続き管理・処分するのはどうなのか。一般勘定から補填することはできないのか、一括引き受けて特別勘定自体を解消する会社はないのか。セイフティネットのクロージングの在り方が問われているのではないでしょうか。