前田 功 [昭和サラリーマンの追憶]
ハイリスク·ノーリターンの公益通報者保護法
まえだ いさお 元損保社員 娘のいじめ自殺解明の過程で学校・行政の隠蔽体質を告発・提訴 著書に「学校の壁」 元市民オンブズ町田・代表
「我々は公務員です。仕事は県民の皆さんのためにするものです。自分のため、自分の栄達のために、仕事はしてはいけない。仕事を利用してはいけない。昇任、出世は結果であって、それを目的にしてはいけない。(中略)人を大切にすること、義を通すこと、誠実であることを、ひとりの人間としてずっと心に持ち続けてほしいです。そして、筋を通そうとして挫けることがあっても、理不尽な現実の壁に跳ね返えされても、あきらめないでくださいね。」
「組織というのは必ずだんだんと腐敗していくものだ。特に権力者トップとその周りにはイエスマンばかり集めてしまって、だんだんとんな組織も腐敗していく。」
これらは、元西播磨県民局長が、県のホームページやブログに書いている文章の一部である。(斎藤知事の写真は県ホームページより)
長くサラリーマンをやって組織の中で足掻いてきた筆者も、そう思う。同感だ。
このような考えの持ち主が、このままでは、公益にもよくない、後輩たちのためにもならない。県と県庁はどんどん腐敗していく・・・と、公益通報者保護法に基づき告発した。60歳だったという。
これを知った知事は、「嘘八百だ。こんなの公益通報にあたらない」と即断し、退職を4日後に控えて再就職先も決まっているのに退職を停止し停職3ヶ月の懲戒処分を命じた。
そして、7月7日、元局長は自死した。「死をもって抗議する」というメッセージを残して・・・。
酷い。だれもが思ったはずだ。
それにしても 内部告発は、ハイリスク・ノーリターン過ぎる。
告発した内容は次の7つの疑惑である。
(1)人事=ひょうご震災記念21世紀研究機構の副理事長2人が突然解任
(2)知事選=2021年知事選で幹部職員らが斎藤元彦氏の選挙を手伝い
(3)知事選=次期知事選に向けた投票依頼のため、商工会などに出向いた
(4)贈答品受領=地元企業からコーヒーメーカーやロードバイクなどを受け取った
(5)パーティー券=副知事らが斎藤氏の政治資金パーティー券を商工会などに大量購入させた
(6)優勝パレード=阪神・オリックス優勝パレード費用を信用金庫などから不正に集めた
(7)パワハラ=机を叩いて激怒したり、職員を怒鳴り散らしたりした。
(ちなみに、(6)に関わった総務課長も自殺している。)
自分に関わることで隠していた事実を指摘されて非難されたら、「そんなの嘘八百だ」と怒鳴る人がいることはよくある。
しかし、斎藤知事は、東大法学部卒で元総務官僚。法律には通じているはずだ。その知事が、「こんなの公益通報にあたらない」というのは、何を根拠に言っているんだろうと思った。
所管の消費者庁のパンフを見ると、
「公益通報者保護法は、労働者が公益目的で企業内の不祥事などについて通報を行ったことを理由に、当該事業者が労働者に対して解雇などの不利益な取り扱いをすることを防止する法律です。」
「公益通報者保護法により保護される公益通報は、対象となる法律に違反する犯罪行為または最終的に刑罰の対象となるものです。」
と書いてある。
これでわかった。知事は「7つの疑惑は、犯罪行為または最終的に刑罰の対象として処罰されるものではない」と考えているのだ。
しかし、納得できない。刑法などに引っかかる行為であろうとなかろうと、県庁内で、こんなことが行われているなんて知らなかった。隠蔽の意図があったかどうかは別として、ほとんどの県民は知らされてなかったことだろうと思う。これを通報することは、公益に叶うことである。 役所にしろ企業にしろ、多くのステークホルダーに隠していることがあってはならない。
今回の事件を受けて、消費者庁は保護法の改正の検討を始めているという。
ハイリスクな通報者を守る仕組みを強化することは当然だと思うが、刑罰の対象になるかどうかという限定を外し、企業や役所の内部の者にしか見えない組織内部の実状を通報することを保護対象に含めるよう改正すべきだ。
更に付け加えるならば、ノーリターンではなく、通報者への、何らかの報奨も考えるべきだ。