暇工作 「高揚する米労働運動と政府の支援」

    ひま・こうさく 元損保社員・現在個人加盟労組アドバイザー        


 アメリカの労働運動が高揚している。米航空機大手ボーイングの労組が賃上げを要求して9月からストライキに突入し、経営者側は1万7千人の人員削減で対抗するなど、大闘争に発展している。ストライキには96%の組合員が賛成しているから団結は固い。彼らは「4年間で30%」の上積み再回答を拒否し、たたかいを続けている。労働者たちは怒っているのだ。それは、同社の最高経営責任者の報酬が3300万ドル(約47億円(!)。前年比45%増にも及んでいる一方で、従業員の賃金は低迷が続いているからだ。率直な怒りだが、果たして日本で、同じような怒りが沸き上がってくるだろうかと、暇は思う。しかも、一旦は組合執行部が経営者と暫定合意に至った「4年で30%以上」という内容を、組合員の90%以上が投票で拒否したというのだから、これも、遠慮や忖度のはびこる日本では考えられないことだ。

 昨年、自動車大手3社を相手に大幅賃上げを獲得した全米自動車労組(UAW)のストの際も、著しく高額な役員報酬が批判の的になっていた。

 このように、米国で労組が元気な背景には、当事者たちの不公正・不平等に対する率直な怒りがある。だが、もひとつの要因を暇は指摘したい。それは、バイデン・ハリス政権による労組支援政策だ。例えば、政府発注事業には、最低賃金15ドルへの引き上げを行った。また、組合つぶしを抑制する法案を提出した。経営者の無法を抑え込もうとする意図が明白だ。そういえば、UAWのストには大統領が自ら現場を訪れ激励している。根底には、労組を通じて富の再分配を図るというアメリカの伝統的な考え方がある。労働組合の社会的機能が正当に評価されているのだ。

 日本では、自民党の新総裁が賃上げ政策の継承を表明したが、最低賃金引き上げに関しては黒字大企業へは直接支援を行うものの、最低賃金引き上げの肝である中小企業支援を行う意思はない。弱肉強食。古い資本主義的論理から抜け出していない。

 そのほかにも、日本においては、労働基本権の保障や親会社の使用者責任など、労働組合権の保障、強化を通じた賃上げの促進など、フェアーなルールを整備・強化して、労働組合の力を発揮しやすくしようと思えば、やれることは山ほどあるはずだが、思考停止に陥っている自民党政権に期待はできない。

 しかし、アメリカの労働運動が高揚している要因は、政権の「援助」によるものだけではない。社会の不公平に怒りを持って臨み、明確な要求を堅持して容易に手離さない。労組の主体的なたたかいが根底にある。そのうえで、労使の対等性を確保するルールづくりに政府を巻き込んでいるというところに核心がある。怒りもなく、 たたかうこともなく、ただ、政権や経営者にすり寄っておこぼれにあずかることくらいしか念頭にない日本のどこかの労働団体とは、そこが決定的に違う。