前田 功          昭和サラリーマンの追憶

              

      

   損保VANとインシュアランス損害保険統計号

             


 まえだ いさお 元損保社員 娘のいじめ自殺解明の過程で学校・行政の隠蔽体質を告発・提訴 著書に「学校の壁」 元市民オンブズ町田・代表


 この1年あまり続いた損保業界のよろしくない報道も一段落した感があるが、代理店への損保社員の出向について、「顧客企業との取引を維持・拡大するための出向は認めない」という指針を損保協会が制定するという報道があった。不祥事につながるおそれがあるためだ。生保にも同じような出向者がたくさんいるが生保にはこういった動きはない。

 

似た業界であるが金融庁や公取委に対しての姿勢は全く違う。叩かれて敏感になっているからか、損保業界はすぐ動く。ちょっとなさけない気がする。一方、生保業界は「おそれがある」くらいでは動かないようだ。

 

少し前の話だが、「損保9社営業成績、共有システム廃止 独禁法違反のリスク 損保協会」という見出しの記事があった。「損害保険9社の間で各社が獲得した契約数などの営業成績を共有してきたシステムが、5月末で廃止されたことが分かった。契約数に偏重した競争を招いたり、逆にシェアを維持しようという誘因になって競争を妨げたりしかねないとの批判がでていた。」「このシステムは『損保VAN』と呼ばれ、日本損害保険協会が1986 年から運営。東京海上日動火災、損害保険ジャパン、三井住友海上、あいおいニッセイ同和損保の大手4社を含む9社が情報を交換していた。」

 

損保VANというのは、損保関連ビジネスに不可欠な契約内容、事故歴、請求内容などの情報を損保会社及び共済が、共同利用するために損保協会が運営している様々なシステムの総称だと、筆者は認識していた。

しかし、記事では、営業成績を共有したシステムのみが「損保VAN」と呼ばれていたかのように書かれている。

このシステム全体が廃止されたら、事故歴があるかないかで保険料が大きく変わる現在の自動車保険制度は、大混乱に陥るはず。

 記事を書いた記者は、損保ビジネスの全体の理解が乏しいまま、営業数字の交換にだけ意識が向かった結果、こういう表現になったのだろうと思う。

損保&共済の共同利用システム全部を廃止するのではなく、9社が課支社単位の営業数字を共有し利用してきた部分についてのみ廃止するということのようだ。この部分のシステムは当初は、業務の効率化を図ることが目的として始まったとされているが、実際は「営業推進」を目的として使われていたようだ。

 

 この記事を見て思い出したことがある。

 昭和の時代、筆者が人事部にいた当時、自社はもちろん同業各社の人員効率を算出し、その数字が業界内でどのくらいの位置にあるかなどを分析する作業をやっていたことがある。

当時は損保VANなどなく、使用したのは毎年発行される「インシュアランス損害保険統計号」だ。この本には、損保各社別の種目別成績概況・種目別保険料・種目別支払保険金、人員数などが記載されていた。発行所である(株)保険研究所が、各社の決算書から拾った数字だと思う。

 エクセルなどまだなかった。(あったのかもしれないが私は知らなかった。) 統計号から保険料や人員数の数字を拾って紙に手書きし、電卓を叩く。そんなことをやって各社と自社の効率などの比較をしていた。

 ちなみに、生保業界については、同じ(株)保険研究所が、「インシュアランス生命保険統計号」を出しており、その別冊として「インシュアランス別冊生命保険統計号 都道府県別契約成績〔個人保険・個人年金編〕」というのもあった。

 

作業しながら、生保のように都道府県別の数字が手に入れば、もっと面白い使い方ができるのになあ…各地の営推に使えるなあ・・・、生保は進んでるなあ・・・などと思ったことがあった。

これを実現させ、課支社単位の営業数字を、損保VANに載せたのが、今回廃止になった部分なのであろう。私がやっていたような手間のかかる作業などなしに、きめ細かに他社の状況をつかめる。1986年からやっていたとあるから、私がその作業を担当していた数年後のことだ。

 

こんなのがあるなら「インシュアランス統計号」も必要ないなあ。インシュアランス統計号は今も発行されているんだろうか。そう思って、ネットで「インシュアランス統計号 令和6年版」で検索してみた。「令和6年版」は出てこず、㈱保険研究所のHPに「令和4年版は2022年12月17日発売します」と載っているのが見つかった。ただ、そのHPには、その後の情報は載っていない。ネット万能の時代だ。この種刊行物を主たる売り物にする出版は商売にならないんだろう。廃業したのかなと思った。

㈱保険研究所のHPを更に見ていくと、質問欄があった。そこに、「インシュアランス損害保険統計号令和6年版はいつ発行されますか?」と書き込んで、こちらのメールアドレスなどを記入して、回答を待った。数カ月になるが、返事はまだない。 

その後、しばらくして、ネットを彷徨っていて、昔、㈱保険研究所の「特約記者」だったという人のブログに行き当たった。そこには、数年前社長に就いた人物の横領によって、㈱保険研究所は廃業になったと書かれていた。 

 

真偽のほどはわからないが、時の移ろいを感じさせられた次第である。