守屋 真実 「みんなで歌おうよ」
もりや・まみ ドイツ在住27年。ドイツ語教師、障がい児指導員、広島被ばく2世。父は元千代田火災勤務の守屋和郎氏
とうとう愛用のギターが壊れてしまった。
集会で弾いている時に弦が切れ、その反動で弦を巻くペグの部品がどこかに飛んで行ってしまった。あたりを探したけれど、側溝にでも落ちたのか見つからない。もともとどんな天気でも屋外で弾くつもりで持ち歩きやすさを第一に選んだ安物ギターだから、6年以上持ったのが不思議なくらいなのだけれど、文字通り「雨にも負けず、風にも負けず」一緒に行動してきた同志なのだ。簡単に粗大ごみに出すのは忍びない。高いお金をかけて直すほどのものではないとわかっていたけれど、ダメもとで修理できるかどうか、ネットで探した工房に飛び込みで行ってみた。
半地下の工房は、ギターとケースだけの飾り気のないところだったが、壁には50万円、60万円というマニアックな有名メーカーの物が並んで掛けられていい雰囲気。店主の若い男性は、きっとこんな安物を直したいというのに呆れただろうけど、それでも親切に対応してくれた。すごいギターを扱っていることを褒めると、大手の楽器会社に10年勤めていたけれど、有名企業にいると自分は大したことをやっていなくても偉くなったような気がしてしまうから良い職人でいられなくなると思い独立したという。それは私がドイツで会社勤めをしていた時に思ったこととまさにに同じなので、「実は私も超高級万年筆をつくっていたんですけど…」と話して意気投合してしまった。夜中に建設現場で働いて資金を貯めたという。こういう独立心のある若者が今でもいるのだと、すっかり嬉しくなってしまった。
彼は修理の話が終わると「こういう行動をやってるんですか?」と話しかけてきた。私のギターに「戦争やめて!」とか「ジュゴンをまもれ!」、「核電帰零」(これは台湾の反原発運動の人からもらった)のシールが貼ってあったからだ。私が「広島生れの被爆二世だから、戦争にも環境破壊にも反対しています」と答えると、「僕のじいちゃんはシベリアに抑留されていたそうです」と語った。以前は戦争映画が好きでかっこいいと思っていたけれど、最近は考えが変わってきたという。「僕は36歳独身で次男坊なんです。戦争になったら真っ先に徴兵されますよね」というので、「楽器は戦争の役に立たないから可能性は高いでしょうね」ということから話が岸田政権の軍拡につながった。「僕たち30代は、コロナのワクチン接種券が来たのは最後だったんですよ。命を守るときには最後なのに、殺されるときは最初かと思っちゃいますよねー」と、なかなか鋭い。話が弾んで自民党の裏金問題になると、「自分は苦心惨憺して確定申告をしたのに、国会議員が平気で脱税しているのに腹が立つ」と今の若い人らしい柔らかい口調で、それでも怒りを吐き出し、フードバンクのことや原発のことなど一時間以上も話し込んでしまった。私がドイツ統一の時にもハンブルクにいたことを話し、「世の中は変えられるのだと思う。でも、誰かが変えてくれるのを待っているだけではだめだ」と言ったら、一瞬考えて、「そうですね」と言ってくれた。
若い世代が政治に無関心だというけれど、そうでない人も本当はたくさんいるのだと思う。ただ、忙しい日常の中でどうやって政治に参画するか、具体的に何をすればいいのかがわからないだけではないだろうか。私たち高齢世代は、もっとさりげなく社会のことを話題にするべきではないだろうか。そこから小さな種まきが始まる。雑草の種はあちこちに落ちているはずなのだ。
ギターは結局諦めることにした。ペグを変えても、他の箇所もかなり傷んでいるので、どのみち長くはもたないということだった。残念だけれど、盟友のギターが最後に素敵な若者との出会いを残してくれたことに感謝。
5月3日の憲法大集会のチラシを渡して来たので、有明防災公園でまた会えるといいなぁと、ひそかに心を弾ませている。