昭和サラリーマンの追憶
社用族の思い出
前田 功
まえだ いさお 元損保社員 娘のいじめ自殺解明の過程で学校・行政の隠蔽体質を告発・提訴 著書に「学校の壁」 元市民オンブズ町田・代表
近所の居酒屋が廃業した。コロナの間は、マスク着用や営業時間の制限など厳しくやっている感を出している店だった。近所の消息通の話によると、コロナで客が来なくなり、ゼロゼロ融資(無利子・無担保貸付)を受けて持ちこたえてきたが、その返済ができるほどは、客が戻ってこなかった。返済が続けられず廃業という話だ。私も、コロナ前はたまには外で飲んでいたが、コロナ流行で行かなくなり、コロナが収束しても元には戻らなかった。他の人も同じなんだろう。
これを聞いて思い出したことがある。現役時代、会社の帰りによく飲みに行っていた店が潰れたことがあった。バブル崩壊のころだった。おやじさんは、「社用族が減ったから、銀座はもうやっていけません」と言っていた。社用族ご用達という感じの店ではなかったが、そんな店にも、バブル崩壊は影響していた。
社用族というと、学生時代、部活の場に先輩が来て、帰りになかま2~3人とともに飲みに行ったことがあった。先輩は大手ゼネコンに就職して1~2年目だった。支払いのときになって、ワリカンしようとすると、先輩が「いいよ。いいよ。経費で落とすから・・・」という。先輩と言っても、23~24の若造。その若造が後輩と飲んだ費用を接待交際費で落とせる。ゼネコンってすごいなと思った。
その後、私も会社に入ったが配属は営業部門ではなかったので、交際費とはほとんど関係がなかった。
この4月から税制上、交際費の損金算入額があげられたという話を聞いた。
今の時代、世上では企業収益は上向きと言われるが、法人税を払っている会社は3割程度という。高度成長期やバブル期当時は、7割が黒字で法人税を払っていた。法人税率も今ほど低くはなかった。「税金を払うくらいなら、交際費で使うほうがいいや」とばかり社用族が跋扈したのだろう。
バブル真っ盛りの80年代後半だったと思う。営業部門の部長と話していてあまりに顔が真っ黒だから「どうしたんですか?」と聞くと、「ゴルフだよ。先月は15回行ったよ」という。月15回とは!
いつ仕事してるんだと言いたいが、本人にすれば、ゴルフ接待で頑張っているということなんだろう。取引先の不動産業者が売り出したゴルフ場の会員権をその部(=会社)が買い、そのゴルフ場を使っているから、経費はさほどかかっていないと言う。この部長はスポーツ入社を公言するほどのスポーツ万能だが、酒が飲めないので夜の付き合いはしないとのこと。酒も飲めるしゴルフも好きという営業の部長たちは、夜は毎日、酒の付き合い。深夜の帰りは、タクシーチケット。そして、週1回くらいはゴルフ。それが普通だったらしい。
それも、取引先だけでなく、部内の社員に飲ませる場合も、経費で処理するのが一般化していたようだ。
彼からすると、自分は夜の付き合いをやる連中ほどは、交際費は使っていないと言いたかったのかもしれない。
以前この欄で書いたが、今のように「株主様の御ため」が金科玉条の株主資本主義になる前の時代は、こんな面でも「働く者独裁」だったと言えるのではないだろうか。良し悪しは別として。