守屋 真実 「みんなで歌おうよ」

                     


 もりや・まみ ドイツ在住27年。ドイツ語教師、障がい児指導員、広島被ばく2世。父は元千代田火災勤務の守屋和郎氏 

                   


  卯辰山公園への旅

 

 思いがけずお盆にかけて10連休が取れたので、久しぶりに旅行をしようと決めた。北海道に行きたくて飛行機、船、列車と探したけれど、直前だったので交通手段も宿も私には高すぎるものしか空いていなかった。

 どうして日本人はみんな一斉に休むのだろう。郷里でお墓参りしたい人やこの時期にある祭りや同窓会に参加したい人はお盆に合わせて休めばいい。でも、リゾートに行く人や海外旅行をする人は時期をずらせばいいのにと思う。今年のように書き入れ時に地震と台風が重なったりしたら旅行関連業者は大打撃だろう。お盆に限らずまんべんなく旅行する人がいる方が、混雑せず価格も高騰せず、関連業者にとっても、旅行する人にとってもメリットがあるだろうにと思う。ドイツでは法定年次有給休暇が6週間あり、管理職も含めて100%消化するのが当然の権利だ。常に誰かが休んでいることになるので、それを見越して多めに従業員数が設定される。日本ではいまだに「休暇を取らせていただく」という感覚だから、ぎりぎりの人員で仕事を回し、雇用者にとって都合が良いように休まされるのではないだろうか。

 

 せっかくの休みだからどこかに行きたくてあれこれ探した結果、手ごろな費用の金沢行き三泊四日を見つけた。

 新幹線に乗って驚いたのは、聞きしに勝る外国人旅行者の多さだ。乗客の半数くらいはヨーロッパ系の人で、外見だけでは日本人と区別できないアジアの人もいるだろうから外国人の方が多数派ということになる。意外に思ったのは、英語や中国語ではなくスペイン語やイタリア語を話している人が多かったことだ。隣の席の若いカップルにどこから来たのか尋ねたら、チリからで二週間日本に滞在するということだった。日本は清潔でサービスが良く、物価が安くて大いに満足しているという。グリーン車ではないから、特別富裕層に属する人ではないだろうが、「豪華なランチがたった3000円で食べられた」と嬉しそうに話していた。私ならランチ3~4回分の値段だけど。五月に官邸前でヴィクトル・ハラの曲を歌っていたら拍手してくれたカップルもチリから来たということだった。失礼ながら私はチリが特別豊かな国ではないと思っていたのだが(名目GDPは世界45位)、それでも長期の海外旅行ができる人がたくさんいるのかなと複雑な気持ちになった。ドイツにいた時には、南アフリカに三週間とかボリヴィアに四週間とか旅していたのに、高齢の母を長く一人にさせられないこともあるけれど、たった四日間しか旅行できない我が身が情けなくなる。私の職場では、このお盆休みに旅行をしたのは私だけだった。日本の労働者は貧しい、と思わざるを得ない。

 

 名所旧跡はどこも人で溢れかえっているから、人が少なそうなところはないかとネットで探していたら、卯辰山公園に鶴彬の句碑があるのを知り、そこに行ってみることにした。

 気温34度の蒸し暑い日だったせいか、歩いている人が誰もいないのが嬉しかった。ちょっとしたハイキングで顎から汗を滴らせながら登っていたら、途中で「日中友好の碑」というのを見つけた。きっと50年代に建立されたものだろう。「アジアの兄弟よ、同胞よ」と歌った時代もあったなと思い出し、隔世の感あり。更に上ると「石川県大衆運動活動家顕彰の碑」というのも見つけた。いわゆる無名戦士の墓だということなので、積もっていた落ち葉を少し手で掃き寄せて、手を合わせた。

 目指していた鶴彬の句碑は手入れがされておらず、ほとんど碑文が読めなくなっていた。暁という文字が読めたので「これだ!」とわかったけれど、探していなかったら気付かずに通り過ぎてしまったかもしれない。石碑は蜘蛛の巣を払い、しだれかかる萩を押しやり、近くの水道からペットボトルに水を汲んで来てかけたらいくらかきれいになったが、木製の説明書きは風雨にさらされて判読が難しいほど傷んでいたのが悲しい。

 「暁を抱いて闇にいる蕾」。全国各地で戦争を記憶したり、平和のために尽力した人々を称えるモニュメントの維持、管理が難しくなっていると聞くが、世の中が闇に向かおうとしている時代だからこそ、これらを残したいと思う。蕾が平和な明るい光の中で花開けるように。

 短かったけれど、それなりに思うところの多い旅だった。