ジョン・レノンの『イマジン』を必ず歌うことを決めたオリンピックは平和運動の道を進むか?


           玉木 正之        


 たまき・まさゆき スポーツ文化評論家,日本福祉大学客員教授。著書に『スポーツとは何か』(講談社現代新書)など多数。近刊は「真夏の甲子園はいらない 問題だらけの高校野球」(編・著、岩波ブックレット、2023年)


 

 パリ五輪の開会式をテレビで見た。各国選手団を乗せた船が次々とセーヌ川を航行する姿は壮観だったし、河岸や橋上でのレディー・ガガやセリーヌ・ディオンの歌唱も、ダンスもファッションショーも見事だった。が、それら以上に銘記すべきは、ジョン・レノンの名曲『イマジン』が歌われたことだろう。

 ピアノ伴奏でフランス人女性歌手が水上ステージで歌ったが、NHKのアナウンサーはこう解説した。「今後、オリンピックの開会式で、常に歌われることになった歌です」

 オリンピック関係者の誰が決めたのかは知らないが、これは、すごいことだ!

 《みんな、想像してほしい。天国も地獄も存在しない。国家も宗教も、存在しない。だから殺す理由も、殺される理由も無い。すべての人々が平和に生きている姿を、想像してほしい。誰も欲張らない。だから誰も飢えることも無い。そうして世界は一つになるんだ!》

 そんな大意の歌は、2000年アメリカで起きた「9・11同時多発テロ」のあと、米政府が放送禁止を要求(命令?)した。その頃から世界は新たな「分断の時代」が始まった。

 そんな「分断の世界」に反旗を翻し、《みんな一つの世界の仲間になろう!》と呼びかけたのが『イマジン』なのだ。

 オリンピックは、平和運動として始まったはずだが、今日では肥大化した商業主義と形だけの国連による「五輪休戦決議」で、単なる巨大国際スポーツ大会の「国別メダル争い」に堕した感もある。

 が、オリンピックに参加する世界中のアスリート全員が、ロシア人もウクライナ人もユダヤ人もパレスチナ人も声をそろえて『イマジン』を歌うようになれば、ひょっとして本物の「オリンピック平和運動」が湧き起こるかも?