「正社員」の謎(7)

     

                        竹信 三恵子


 たけのぶ みえこ  朝日新聞社学芸部次長、編集委員兼論説委員などを経て和光大学名誉教授、ジャーナリスト。著書に「ルポ雇用劣化不況」(岩波新書 日本労働ペンクラブ賞)など多数。2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞。


 コース別人事の亡霊(下)

 

 AGCグリーンテック訴訟地裁判決は、前回述べたように日本の間接差別を国際基準にまで大きく近づけた。ただ、これは福利厚生部分についてのもので、もうひとつの柱の男女の賃金差別は認めなかった。

 一般職の原告女性は、上司が不在の際は部署の業務を一人で担い、転職などで出入りの激しい男性総合職の業務を引き継いで、職場を支えてきた。だが、そうした仕事の価値が賃金の等級に十分反映されず、中途入社してきた唯一の男性一般職と大差を付けられた。

 地裁判決は、中途採用者の賃金は、元総合職としての経験や前職の賃金を踏まえるのが普通で、原告女性より高いランクづけは「転職市場における交渉原理を反映したもの」とし、査定についても、「(企業の)広範な裁量が存在する」として棄却した。

 国際労働機関(ILO)は賃金差別の是正の方法として、スキル、責任、労働環境、負担度の四つの要素で職務を分析して点数をつけ、その点数の総計がほぼ等しければ、異なる仕事でも「同一価値労働」として同一賃金を認める方法を推奨している。だが、日本ではこうした方法は採用されていない。

 日本でも労働基準法4条で、男女の賃金差別は禁止されている。だが、「同一価値労働同一賃金」については国連の女性差別撤廃委員会から再三勧告を受けても、一向に明文化しない。

 このため、少し仕事内容を変えてしまえば差別とはされにくく、女性への低賃金は是正されない。

 背景には、判決にもあったように、日本の会社の賃金への圧倒的な裁量権があり、社会からの賃金規制は最低賃金くらいしかない。

 会社は株主のものというだけでなく、社会のものでもある。そんな原則の弱さが、男女の格差を生む。