今月のイチ推し本

 『検証 政治とカネ』上脇博之 岩波新書2021


                       

         岡本 敏則

 

    おかもと・としのり 損保9条の会事務局員

 


 

 自民党の政治資金規正法違反を検察に告発続けている上脇博之さんの最新刊です。上脇さんは現在、神戸学院大学法学部教授、市民団体「政治資金オンブズマン」代表です。「政治とカネ」問題をたたかう最良の教科書です。

 

 ◎自民党はなぜ裏金を作ったのか=①どの企業が政治資金パーティー券を購入したのか、また、その購入額はいくらなのか、誰も確認できないので、裏金が簡単につくれるから。②自民党の本部や支部は合法的に使途不明金=裏金をつくれるし、内閣官房長官は内閣官房報償費という公金の使途を公表しないので、派閥の政治団体も同じように裏金が欲しかったから。③自民党総裁選挙では、買収や選挙区内にある者への寄付を禁止している公職選挙法の適用がないので、裏金で買収したかったから。④福祉国家政策を否定した構造改革=新自由主義政策の強行により自民党員が激減したにもかかわらずそれでも衆参国政選挙で勝利したい。そのための裏金が欲しかったから。

◎国会議員の収入=①歳費月額129万4千円、期末手当年2回600万円、年収約2,200万円。②立法事務費月65万円、年780万円。③調査研究広報滞在費月100万円、年1,200万円。一人当たり約年4,200万円。

 

 ◎公設秘書の人件費=①政策担当秘書年収730万~1,080万円。②第一秘書=700~1,070万円。③第2秘書=540~800万円。合わせて約2,000~3,000万円。

◎自民党の年・純収入に占める政党交付金の割合一①2020年172.6億円=71.7%②2021年169.5億円=69.5%n。②2022年159.8億円=64.3%

◎自民党の派閥の総収入に占める政治資金パーティーの割合(2022年)=①清和政策研究会(安倍派)1億9762万円(68.5%)②志帥会(二階派)2億1209万円(86%)③平成研究会(茂木派)1億8240万円(84.1%)④志公会(麻生派)2億3331万円(81.4%)⑤宏池政策研究会(岸田派)1億8329億円(79.9%)

◎自民党本部の「政策活動費」名目での幹事長らへの支出額=①石破茂=2012年2億6000万円、13年10億2710万円、14年5億1140万円。②茂木敏充=2015年1億5550万円、16年1億190万円、21年2億4520万円、22年9億7150万円。③二階俊博=2016年5億250万円、17年13億8290万円、18年8億3270万円、19年10億710万円、20年6億3200万円、21年4億3910万円。

 

 ◎1993年細川内閣誕生=1993年、非自民・非共産八党の連立政権が誕生。多様な民意の切り捨てにつながる選挙制度改革には、与野党間で根強い反対があり、細川内閣が提出した政治改革法案はいったんは参議院で否決されたが1994年1月29日未明に、当時の細川首相と河野洋平自民党総裁のトップ会談が行われ、政治改革法案は一転成立することになった、成立した政治改革関連4法案は、政治資金規正法の改正に加え、衆議院に小選挙区選挙中心の並立制を導入し、政党に政治助成金を交付するという内容だった。企業献金は事実上容認されたままになったので、結果としてかつての財源も温存しながら、政治家たちは新たな収入源を作ってしまった。当時自民党の実力者であった金丸信元副総裁ですら、政党交付金について「そんなもの導入したら『泥棒に追い銭』になる」といって反対していた。

 

 ◎村山富市内閣=1995年、自民党・社会党・新党さきがけの連立政権だった村山内閣は、助成金の額は政党の前年の実収入の3分の2以下にするという上限規定を撤廃してしまった。社会党も、自民党と一緒になって自分たちの利益を優先した。現在の状況を見ても、立憲民主党や国民民主党、それにあれほど「身を切る改革」といっている日本維新の会も、政党交付金を廃止するつもりはないようです。日本維新の会は「企業献金を受け取らない」と、清廉潔白に聞こえるようなことを標榜しているのですが、政治資金パーティーはほかの政党と同じようにやっています。つまり、パーティー券収入の形で事実上の企業献金を受け取っているわけでまったくの看板倒れと言わざるをえません。交付金については唯一、共産党だけは受け取りを拒否し続けているうえ、廃止法案も提出しているのですが、他党の協力が得られない以上、成立する可能性はゼロに等しい。

 

 ◎三権分立=学校で、日本国憲法は国会(立法)、内閣(行政)、裁判所(司法)の三つの独立した機関が相互に抑制しあい、バランスを保つ「三権分立」の原則を定めていると習うかとおもいます。しかし、国会は「国権の最高機関」なのですから、内実としては国会が他の二つの機関に対して優位に立っていると理解しなければなりません。ところが、小選挙区制が導入されて以来の30年間で、内閣が国会に対して非常に大きな力を持つようになってしまった。内閣というのは、選挙を経て選ばれたわけではありませんから、国民から見ると国会に比べると遠い存在です。内閣が大きな権限を持つと、たとえば原子力発電の推進のように世論調査をすれば多くの国民が反対しているような政策でも、内閣主導でどんどん進めることができてしまう。国会もそれに追随するばかりなので、簡単に法案が通ってしまいます。1990年代の政治改革は政党助成金、小選挙区制の導入を通じて日本の議会制民主主義の在り方を歪めるという、現在まで続く大きな禍根を残してしまった

 

 ◎告発を続ける理由=一つには政権の横暴を止めたいからです。日本国憲法は議会制民主主義の立場なのに、現行の法律で定める選挙制度や政治資金制度について定めている諸法律が議会制民主主義に反しているので、政権・与党は簡単に暴走できるとみなしてきましたし、現に暴走してきました。私は、それを見て見ぬふりはできないので、権力者の暴走が現れる「政治とカネ」事件で告発を粘り強く続けているのです。もう一つは、日々、屋内、屋外で、市民運動や憲法運動をされている皆さんの言動を見て「自分もやれることをやろう」と思うからです。大学の仕事もあり、市民運動や憲法運動に参加する時間には制約がある一方、私であれば告発状が書けます。役割分担のようなもので、デモ・パレードや署名活動、宣伝活動になかなか携われない私は、その代わり告発状を書いているだけなのです。怒りながらも冷静に告発を続けているのです。今日も明日も明後日も。