損保・生保・銀行・開運 

9条の会合同講演会「平和と戦争について考える」report


           前田 功  (本紙編集委員) 


 10月 19 日(土) 損保9条の会・生保9条の会合同講演会が、東京北区王子の北とぴあで行われた。

 

 まず、朗読の会こだまのみなさんによる、「壊してはいけない」「するめ味の戦争責任」(「続、窓際のトットちゃん」の中より)などの朗読が行われた。トットちゃん(黒柳徹子)と交流のあった昔の芸能人らの平和への思いが表現された。

 

 

   続いて、損保・生保・海運・出版・銀行の各業界から、各々の業界がいかに平和と関係しているかが、具体的に報告された。

 『損保・生保』 ともに、そのビジネスは平和が前提である。ただ、本来は戦争や内乱に巻き込まれた場合、保険金は支払われないことになっているが、イラクへの自衛隊派遣の際は、「非戦闘地域への派遣」という建前で、損保ではPKO保険の引き受けが行われている。

 『海運』 先の戦争で民間人の船員の戦没者は6万人、この数字は軍人より死亡率が高かった。また、政府は民間人船員を「予備自衛官補」にしようと画策している。

 『出版』 反動的歴史教科書採択の動きについての報告があった。

 『銀行』 核兵器製造企業への日本の銀行の融資が巨額(兆円単位)に上る。われわれ国民の年金を運用する年金運用機構(GPIF)も同様だ。

 

 続いて、メインスピーカーの斎藤貴男氏から、「今度こそ加害者の立場にならないために」と題して、講演があった。斉藤貴男氏の講演要旨は次のとおり

 

1.  石破茂新政権をどう見るか

 

―安倍政権時代の言動で党内“リベラル派“のように目される新首相。しかしてその実態は―

 

 石破氏は軍事オタクと言われた人。過去には「徴兵は憲法違反ではない」との発言もある。9条2項削除に積極的。アジア版NATOなどは政官から総スカンを食っている。ただ、石破がダメとなると、高市が出てくる。究極の選択というべきだろう。

 安倍以来、彼らを「戦前への回帰」とみる見方があるが、それは違う。戦前の日本は、例えば大東亜共栄圏にしても日本が一番でその中心という考えだった。しかし、今回彼らが向かっているのはアメリカの子分としての国造り。大日本帝国ごっこ。虎(アメリカ)の威を借る狐になりたいようだ。

 

 2.「専守防衛」のゆくえ

 

―集団的自衛権の行使を容認した「安保法制」と改訂「安保3文書」が意味するもの—

 

 岸田政権が閣議決した安保3文書とは、国家安全保障戦略・国家防衛戦略・防衛力整備計画の3つ。その狙いは、米軍と自衛隊を「統合」し、日本を米中対立の最前線に立たせることにある。自衛隊はアメリカの傭兵にされそうだ。ベトナム戦争の際、韓国は派兵し、かなりの戦死者を出したが、9条がゆえに日本は派兵せずに済んだ。

 

 3.戦争経済大国としての戦後日本

 

―高度経済成長は朝鮮半島とベトナムの戦争「特需」で果たされた現実を受け止める―

 

  太平洋戦争後の日本の経済発展はアメリカの戦争によるところが大きい。漁夫の利を得たというべきだ。朝鮮特需だけでなく、ベトナム戦争でも同じだ。ベトナム戦争の間に、対米輸出、対東南アジア輸出はものすごく伸びている。

 

 4.  新しい総動員体制が整えられつつある

 

―例えば「マイナ保険証」は監視社会の基盤となる。ではその監視社会は何のためか―

 

 政府は、マイナ保険証を増やした医院や薬局に金を出してまで、マイナンバーカード取得をすすめている。これは個々の国民をより監視しやすくするためだ。

 セキュリティ・クリアランス制度というのがあって、「重要経済安保情報」を扱う人に対して政府が「適正評価」を行うようになっている。特定機密保護法や重要経済安保情報保護法がそのベースである。

 斎藤貴男氏のお父さんは、長くシベリアに抑留され帰ってきたのは最後の帰還1956年だった。それから20数年たって、斎藤氏は就職の際、某大企業に早期に内定を得ていた。しかし、内定解禁の10月1日直前にドタキャンされた。どうも、シベリア抑留ということが理由らしかった。その後、ジャーナリストとなり、公安調査庁の職員を取材することがあった。その際、そのドタキャンの話をし、父はエリートでもなんでもなく、スパイなどできる人間ではないのに、と説明すると、その職員は「下層の人間ほど国家に対してルサンチマンがあるからなあ」と言っていたそうである。

 セキュリティー・クリアランスは、防衛産業のエリート社員だけにかかわることというイメージで受け止められているが、政府がいつで簡単に、私たち一人一人の思想信条、経済的状況、趣味・嗜好を調査できるようにしようとしている、と考えるべきだ。

 表に出ることははばかられるとされてきた公安調査庁が、経団連と合同で、経済安保をテーマにしたシンポを開催したことがあった。これにはFBIも参加していたそうだ。セキュリティ・クリアランスを先取りしていこうということのようだ。

 政府に嫌われたら、要職につけない、場合によっては就職もできない、そんな社会が見えてくる。

 

 5.「9条」を考える

 

 ―形骸化の一途をたどる平和憲法。麻生太郎のいう“ナチス憲法”にされないために—

 

 ドイツでは、当時、世界で最も優れた憲法とされていたワイマール憲法のもとで、ヒトラーが登場し、ナチが支配することになった。憲法改正なんてなくても、憲法を形骸化していけば何でもできるという麻生のいう状況が強まっている。

 

 憲法を大事にしないのは、保守派の専売特許と思う人が多いようだが、憲法改正に反対と言っているリベラルの側でも、憲法がないがしろにされようとしていると思うことがある。同性婚について、札幌高裁で判決があった。憲法24条には、「婚姻は両性の合意にのみ基づいて・・・」とある。原理主義的に解釈すれば、同性婚はダメとなる。この条文が書かれた当時、少なくとも「同性婚導入」は想定されていなかった。

 「時代が変わったから・・」ということだろう。しかし、時代の「変遷」を言うのは、憲法9条改悪推進側に逆手に取られかねない。警戒が必要だ。

 

 6.「台湾有事」は「日本有事」なのか?

 

 ―またしてもやってきた帝国主義の時代。今こそ加害者の立場にならないために—  

 

 アメリカも中国一国主義を認めている。米軍が台湾に出ていくのにどういう手段を取るのだろう。台湾有事となれば、沖縄の米軍基地から出撃することは明らかだ。そうなると,中国は日本を参戦国とみなすだろう。

 戦後すぐのころ、ある中国研究家が、アメリカの対日政策にについて、日本は「アジアの工場」「ロシアに対する防壁」「ドイツとイギリスとネパールを足したくらいの役割がある」「日本はアメリカに上手に使われている」と言ったことがある。この人はその後アメリカのレッド・パージで、イギリスに逃れたようだが・・・。 

 対中緊張はやむをえないとしても、日本は交戦権を認めていないのだ。日本がアメリカと同じ価値観であってはならない。