松久 染緒「随感録」


まつひさ・そめお 元損保社員、乱読・雑学渉猟の読書人で、歌舞伎ファン。亥年生まれ。        


                     政治家は習字の稽古を

  この記事が掲載される頃には総選挙の結果が出て、石破茂新政権が信任を得て続くのかあるいは保革逆転・野党連合政権(?)となるかわかってくる頃だろう。いずれにしても楽しみな情勢だ。

ところで話はややさかのぼるが、先の自民党総裁選挙の際に、9名もの候補者が出たが、それぞれ政策を掲げた際のボードに書かれた文字のひどさにはあきれた。いずれも幼稚園児か小学生以下といったら子供たちに失礼だが、その程度の幼稚で読みにくい漢字やひらがなだった。まさか王羲之とか顔真卿を見習えとまではいわないが、いやしくも一国の総理・総裁を目指す国会議員たちではないか。だれにもわかりやすく読みやすい文字を書くのが基本だろう。普段ワープロやSNSを使っているからなどは言い訳にならない。これら議員は初めから習字の練習をやり直した方がいいと思うのは私だけではあるまい。なぜなら昔の政治家、例えば池田勇人(前の大蔵省の字)、佐藤栄作、田中角栄といった面々は、それなりに立派な字を書いていたではないか。いつごろから政治家が貧相な字になったのだろうか。そういえば中央省庁の看板を所管の大臣が揮毫する時期があり、先の大蔵省(池田勇人)、国税庁(水田三喜男)は立派でまともな方だが、総務省(片山寅之助)、防衛省(久間章生)、国土交通省(扇千景)、内閣人事局(稲田朋美)など、まったくひどい字の看板が今もかかっている。もっとも「こども家庭庁」の看板は、実際子供たちに依頼した由で、これはやむを得ないだろうが。

省庁の所在を示す表札なんだからわかりやすいのが一番だと思うが、この際、外務省、国家公安委員会、警察庁、法務省などのように明朝活字に統一した方が断然いいのではないか。大臣に看板を揮毫させていい気分にさせるか、それとも大臣としての実績はまったく無く、あとに残るのは看板だけとする究極の忖度なのか。

  

もっとも閣僚でも漢字(というか日本語の言葉)がまともに読めないしゃべれないのがゴロゴロいるらしいから、不明確な政策、信用できない人格・識見だけでなく、政治家のレベル自体がもはや地に落ちたといえばそれまでだ。「みぞうゆう」などひどすぎて有名な麻生太郎は論外だが、あの元総理安倍晋三でも、国会答弁で「訂正云々」を「ていせいでんでん」といった(うんぬんが読めなかった)そうだし、恐れ多くも皇居における先の天皇陛下の祝賀式典の席上、「(陛下の)ご健康を願って已みません」の「やみません」が読めなくて「願ってません」といったとか。これなど戦前なら不敬罪で失職ものだ。