今月の推し本

 

従属の代償 日米軍事一体化の真実』布施祐仁 講談社現代新書2754


                       

         岡本 敏則

 

    おかもと・としのり 損保9条の会事務局員

 


  石破首相は、日米地位協定の見直しと言っていたが、今は口をつぐみ、日米核共有を言い出した。今月は「在日米軍基地」に続き、「日米軍事同盟」を取り上げてみた。

 

 ◎更なる一体化=今年7月28日、東京で日米安全保障協議委員会の会合が開催された。会合後、在日米軍司令部を再編して作戦指揮権限(司令官を中将から大将に格上げ)のある統合軍司令部を新設し、自衛隊の統合作戦司令部との作戦面での連携を強化する方針が発表された。目指すのは、日本やその周辺地域(台湾海峡や朝鮮半島など)でいつ戦争が起きても在日米軍と自衛隊が一丸となって戦える体制の構築だ。オースティン米国国防長官は記者会見で「在日米軍の創設以来最も重要な変化であり、日本との軍事上の関係において過去70年で最も強力な進展の一つ」と述べた。またこの日は(核の傘)拡大防止に関する日米閣僚会合も開かれた。日米の閣僚が「核の傘」にテーマを絞った会合を持ったのは史上初めてのことだった。

 

 ◎見捨てられる=今年4月岸田首相は米国連邦議会で「日本は・・第二次世界大戦の荒廃から立ち直った控えめな同盟国から、外の世界に目を向け、強く、コミットした同盟国へと自らを変革してきました」と演説。自らが先頭に立って防衛力の抜本的な強化を進めてきた成果を、アピールし、「日本は米国とともにある」と強調した。現在、物凄いスピードで自衛隊の軍備強化と米軍との一体化が進んでいる。岸田のこの発言の陰には米国に「見捨てられるかもしれない」という不安が見え隠れする。安倍晋三もいざという時米国に見捨てられるのではないかと心配し、見捨てられないために米軍への軍事的協力を拡大してきた。

 

 ◎南西諸島の軍事化=石垣島に2023年3月、陸上自衛隊の新しい駐屯地が開設された。沖縄県の最高峰・於茂登岳の南側連山の麓に開設された「石垣駐屯地」には、八重山諸島(石垣島、竹富島、西表島、与那国島、波照間島など大小32の島々からなる)の警備を担う「八重山警備隊」を中心に、総勢570名の隊員が配備された。式典で挨拶した浜田防衛大臣は、隊員たちに次のような訓示をした。「石垣島をはじめとする先島諸島は吾が国防戦の最前線に位置する。南西地域における防衛の強化は我が国を守り抜く決意の表れであり、諸君はその精鋭だ。隙のない防衛体制は諸君の肩にかかっている」。

 

 ◎南西の壁=南西諸島の島々に地対艦ミサイル部隊を配置すれば、中国の侵攻部隊を乗せた艦艇の接近を阻むことができる。ミサイルの壁で中国の侵攻をブロックすることから、「南西の壁」と名付けられた。この構想は、2010年12月に〈民主党政権時の菅直人内閣〉が閣議決定した「防衛計画の大綱」(現・国家安全保障戦略)に反映された。大綱は、尖閣諸島周辺での活動の活発化を含む中国の海洋進出を「地域・国際社会の懸念事項」と指摘し、陸上自衛隊の配備も含めて南西諸島の防衛力を強化する方針を打ち出した。13年の時を経て、「南西の壁」は完成した。米国の軍事戦略に呑み込まれる形で、まったく別の目的を持つものに替えられてしまった。

 

 ◎南西諸島が戦場に=2022年1月、自衛隊と米軍の間で密やかに、台湾有事を想定した日米共同作戦計画の「原案」が策定された。米海兵隊が南西諸島の島々に臨時の軍事拠点を設け、米海軍の後方機動部隊が台湾周辺地域に展開できるよう、地対艦ミサイルで中国艦艇の排除に当たるというもの。自衛隊も、日本政府の事態認定に応じて、米軍の作戦を支援する計画だ。陸上自衛隊は近年、米軍のEABO(遠征前進基地作戦)を行う米海兵隊との連携を想定した共同訓練を繰り返している。石垣島でも「陸自の領域横断作戦と米海兵隊のEABOを踏まえた連携要領の具体化を図るために実施する」(陸上幕僚監部)と公言している。

 

 ◎指揮権密約=1950年秋、米国政府は連合国の占領終結後も米軍の日本駐留を認めることなどを条件に、日本と講和条約を締結する方針を決定した。交渉の中で米国政府は、占領終結後の日米の安全保障協力について定める協定に有事の際は警察予備隊(自衛隊の前身)など日本の部隊を米軍司令官の指揮下に置くという規定を入れるよう要求した。1952年4月28日サンフランシスコ講和条約が発効し、同時に日米安全保障条約も発効した。3か月後の7月下旬、吉田茂首相、岡崎勝男外相、マーク・クラーク米極東軍司令官、ロバート・マーフィー駐日米国大使の4人が会談した。クラークが国防総省に送った公電「私は7月25日夕刻、吉田、岡崎、マーフィーと自宅で夕食を共にした後、会談を行った。私は、我が国の政府が有事の際の軍隊の投入に当たり,指揮の関係について日本政府との間で明解な了解が不可欠だと考えている理由を詳細に説明した。吉田は即座に、有事の際に単一の司令官は不可欠であり、現状の下では、その司令官は合衆国によって任命されるべきだということに同意した」。吉田はこの合意を秘密にするよう求めた。

 

 ◎自衛隊は米軍のパーツ=2019年6月、南シナ海で米海軍第七艦隊と海上自衛隊の共同訓練が行われた。第七艦隊からは横須賀を母港とする原子力空母「ドナルド・レーガン」が、海上自衛隊からはヘリコプター搭載護衛艦「いずも」(2018年空母に改修する方針を決定した)などが参加した。中国を牽制するためであったろう。第七艦隊のウエッブサイトに掲載された記事に、「ロナルド・レーガン」で哨戒長を務める士官のコメントが紹介されている。「海上自衛隊と共に行動し続けることで、我々は結束した単一の部隊になります。彼らは空母打撃群にとって、あらゆる状況に対処する能力を倍加させる不可欠なパーツです」。

 

 ◎核共有=2010年3月17日、当時の民主党政権の外相だった岡田は「緊急事態の際には、政府が米軍の核兵器搭載艦の一時寄港を容認することもあり得る」と衆議院外務委員会で答弁した。2022年3月7日の参議院予算委員会で岸田首相は、この岡田答弁を「岸田内閣においても引き継いでいる」と明言した。今辺野古で弾薬庫の建て替えが進んでいるが、核兵器を再び持ち込んで運用する事態を想定しているのではないか、と予想される。

 

 ※布施裕仁氏は1976年生まれ、ジャーナリスト。専門は外交・安全保障。著書多数。