今月の推し本

 

『ウクライナ戦争と米中対立』峯村健司他 幻冬舎新書


                       

         岡本 敏則

 

    おかもと・としのり 損保9条の会事務局員

 


 

 書店の新書コーナーを見ていると平積の本書があった。峯村健司氏、元朝日新聞の記者。故安倍晋三の「週刊ダイヤモンド」でのインタビュー記事で、安倍晋三に頼まれて副編集長に「俺は安倍の顧問だと」名乗りゲラを見せろと要求し、朝日新聞の倫理委員会にかけられ一か月の停職処分を受け、退職した人物であったからだ。著者は国民の玉木とは昵懇の仲であり、保守党からも称賛されている。本書は「幻冬舎大学の」講座をまとめた本である。対談の相手は5人、彼らはいかなる発言しているか。

 

 ◎ロシアの世界観=ロシアにとって「主権」とはごく一部の大国だけが持てるものなので、中小国は主権国家とみなしていない。世界には主権国家と植民地しかない。5本の指に入るぐらいの大国だけが世界の主役で、それ以外はその国の手下にすぎないと。日本なんかは、明らかに主権国家とは思っていない(当たり)。本来ヨーロッパはドイツとロシアが共同統治すべきだという考え方が根強くある。西ヨーロッパはドイツにくれてやる。東ヨーロッパからユーラシア空間はロシアのものだ。ドイツとは一緒にやっていける。その仲をアメリカやイギリスが割こうとしているのだと(小泉)。

 ◎自前のコップ=習近平は史上最大規模と言われる反腐敗キャンペーンでは200万人を超える人たちを拘束・処分した。今、仮に習近平が暗殺されても誰の犯行かわからないぐらい、各方面で恨みをかっている。軍改革では制服組のトップ二人をパクった。だから習近平は今、どこで会食するにも自前のコップを使っている。毒を盛られる可能性があるので(峯村)

最近のプーチンもグラスに口を付けません。ロシアの双頭の鷲の紋章が刻まれた白いタンブラーを使っている(小泉)。

◎気合と根性=憲法改正論議では、多くの人が「平和を守るには憲法9条が大事」だと言いますよね。でも、いくら憲法9条があっても、戦争は向こうから勝手に始まってしまうことがある。その可能性はちゃんと考えておかないといけない。例えば北朝鮮を見ればわかる通り、本気で何かを成し遂げようと決意した国の指導者は、経済で打撃を受けようが国民が飢えようがやり遂げるんですよ。国際関係は、いわば気合と根性なんです。覚悟を決めた国は、そう簡単に相手の言うことを聞きません(鈴木)

◎対中戦争と軍備=中国との戦いを想定するのであれば、航空機をベースにして打撃力を積み立てることにはあまり期待できません。航空基地は緒戦で一瞬にして破壊されるおそれがありますから。我々がやるべきことはミサイル攻撃の防御ではなく、ミサイル攻撃に続く中国軍の攻撃を防ぐことでしょう。相手の航空戦力を弱めることに集中する必要がある。そのためには、中国の航空基地をある程度まで破壊できる中距離ミサイルか、極超音速滑空ミサイルのようなものを優先的に配備すべきだと思います。第1に、移動可能で残存性が高いこと、第2に、中国の防空システムに対して高い突破力がある、つまり防御されにくいこと。第3に、配置する場所を柔軟に選定できるだけの十分な射程を持つこと。そして第4は、目標に対して一度の攻撃で大きな損害を与えられること。今のところ、陸上自衛隊が「島嶼防衛用高速滑空弾」という呼称で、極超音速滑空ミサイルのようなものをつくるプログラムをやっています。これは2026年ぐらいに実用化される予定です。敵基地攻撃ができるとすれば射程1000キロから1500キロに伸ばすことが必要。IHIのような固体燃料ロケットを開発している防衛産業などと協力して、射程が3000~4000キロの弾道ミサイルを開発できるといいでしょう。アメリカからミサイルを買うとなると、日本国内では反発が出るでしょう。アメリカの兵器を受け入れるか否かという矮小な議論よりも、まず日本にそのような能力を持つミサイルが必要であると腹をくくることが大事でしょうね(村野)。

◎核の使用=ウクライナをめぐる核危機であっても、万が一アメリカが核を使うことを決断しなければならないような状況の時には、日本は同盟国としてアメリカの決断を支持し、その重大な責任を共有する覚悟があることを示しているべきです。グローバルな秩序を維持するためにも、そういう視点があることを日本として考慮しておく必要がある(村野)。

 ◎台湾有事=作戦の拠点になる日本で政府や自衛隊に何ができるでしょう。憲法9条で手足を縛られ過ぎているので、ほぼ何もできない。間接的にアメリカを支援することしかできない。そこまでステイしたうえで、自衛隊の活動できる幅を広げることができれば、中国への抑止力を高めることができる。日本人はほとんど気がついいませんが、中国はいざとなったら米軍と日本が協力して自分たちに歯向かってくると考えています。かつて安倍晋三さんが手がけた集団的自衛権の変更も、中国はそういうものとして理解している(筆者もそう理解している)(小野田)。

 ◎国連には頼れない=日本の左派系知識人の多くはこれまで、自衛隊廃止を訴えて自衛を否定し、日米同盟にも批判的だった。だから国連だけに頼るべきだ、となる。その国連安保理で拒否権を持つ中国やロシアが攻めてきたときに、どうやって日本を守るのか、という疑問が生じる。この簡単な疑問にさえ、自衛隊や日米同盟に批判的な知識人は、答えていない。日本が防衛費を増強し、日米同盟を強化するのも論理的な必然でしょう、国際社会の平和と安定を守るうえでの国連の機能が低下しているのであれば、ほかに選択肢はありません。国連に過剰な期待をするのは間違いです(細谷)。ロシアによるウクライナ侵攻を目の当たりにしても、「防衛費をこれまでの2倍に増額するなんてとんでもない」「とにかく紛争は外交的な対話で解決すべし」という声が根強い。国連をつかさどる常任理事国であるロシアが堂々と国際法違反をしたにもかかわらず、国連中心主義を唱える人がいまだにいることが信じられません(峯村)。