斎藤貴男「レジスタンスのすすめ」


 

    

             スポットワーク延長線上に「闇バイト」?

 


 さいとう・たかお 新聞・雑誌記者を経てフリージャーナリスト。近刊「『マスゴミ』って言うな!」(新日本出版、2023年)、「増補 空疎な小皇帝 『石原慎太郎』という問題」(岩波現代文庫、2023年)。「マスコミ9条の会」呼びかけ人。


 

  「スポットワーク」という働き方がある。スマホアプリで求人側と求職側のニーズをマッチングさせる仕組みだ。あなたの現在地に近いコンビニ〇〇店で、30分後に棚卸し作業の仕事あり、時給●●円、なんて具合。。

 別名を「スキマ(隙間)バイト」という。履歴書も面接も必要なく、空いた時間をお金にできるので、若者や副業で小遣い稼ぎをしたい会社員らに人気があるのだとか。

 2018年に登場した〃ニュービジネス〃で、コロナ禍に伴う人手不足もあって急成長。最近はIT大手などの参入がめざましい。登録者数も今年5月末時点で約2200万人にまで膨らんだ(スポットワーク協会調べ)。

 なるほど求人・求職のどちら側にも手軽で便利、「自由」な働き方ではあるのだろう。ただし労働者の権利は限りなく乏しい、とも伝えられる。

 ピザの宅配で契約したのに実はトイレ掃除だった、などとの話が珍しくもない。ある調査結果によると、スポットワーク経験者の5割以上が、トラブルに遭遇したと回答したという。

 その割には社会問題に発展していない状況が不思議だ。これもまた今や絶対的な正義となった感のある「多様性」の一環なのか。そう言えば1990年代半ば以降、正社員を非正規労働者に切り替えていく国策が推進され始めた頃、経済界はしばしば、派遣や請負を「働き方の多様化」なのだと自画自賛していたっけ。

 人権の問題だけでもない。「自由」でさえあれば何でもいいというものでもない。

 こんな働き方が当たり前になったら、まともな雇用やフリーランスの契約まで悪影響にさらされるのは必定だ。一人ひとりの人間性や精神性もスポイルされていくのではないか。あの忌まわしい「闇バイト」も、スポットワークの延長線上にあると言ったら、言い過ぎだろうか。厳しい規制が求められる。