ワールドシリーズに勝てば、本当の世界一なのか?


           玉木 正之        


 たまき・まさゆき スポーツ文化評論家,日本福祉大学客員教授。著書に『スポーツとは何か』(講談社現代新書)など多数。近刊は「真夏の甲子園はいらない 問題だらけの高校野球」(編・著、岩波ブックレット、2023年)


 

 今年の「ワールドシリーズ」ニューヨーク・ヤンキース対ロサンゼルス・ドジャースの闘いは、大谷翔平、山本由伸という2人の日本人選手が活躍したドジャースの勝利。そこで日本の新聞やテレビは、「ドジャース世界一!」と大騒ぎした。が、これって、どこか、おかしくないか?

 テニスやゴルフのアメリカで最も権威ある大会は全米選手権。アメリカンフットボールはスーパーボールで、バスケットボールもNBAのチャンピオン。「世界一」とは呼ばれないのが普通だ。

 なのになぜMLBの王者だけが、「世界一(ワールドチャンピオン)」と呼ばれるのか? それは「ワールドシリーズ(世界大会)」という名称にあるからだが、1903年に始まったこの大会が、レッドソックス対パイレーツの試合となり、ボストン対ピッツバーグの試合のどこが世界大会なのか? と、多くのアメリカ人も首を傾げ、批判する人も出た。また、この名称は「うそ」だと裁判所に訴える人も出たらしい。

 が、そもそもなぜワールドシリーズという名称が生まれたかと言うと、それは誕生した当初、「ワールド」という名前のスポーツ新聞が企画し、スポンサーになったため、自社の新聞の名前を冠したのが始まりだったらしい。

 その新聞が廃刊となった後も「ワールドシリーズ」の名称が残ったが、プロ野球の日米の王者が闘い、将来は韓国・台湾・オーストラリアなど、世界中の王者も参加する「本当の世界選手権(リアル・ワールドシリーズ)を!」と提案したのが「アマチュア球界のドン」と呼ばれた故・山本英一郎氏。その提案にMLBも賛成したが、9・11同時多発テロで実現不可能となり、代わってMLBがWBCを始めた。この「隠れた歴史」は覚えておきたいですね。