守屋 真実 「みんなで歌おうよ」

                     


 もりや・まみ ドイツ在住27年。ドイツ語教師、障がい児指導員、広島被ばく2世。父は元千代田火災勤務の守屋和郎氏 

                   


 「意識高い系」

 

 仕事で子どもたちを学校に迎えに行く途中、カーラジオでニュースを聞いていた。自民党の裏金疑惑が発覚し、岸田政権の支持率が20%台に落ちたという報道だった。それを聞いていた20代の同僚が、「これだけ支持率が落ちているのに、どうして政権交代できないんですか」と私に尋ねた。彼女は好奇心旺盛で活動的で、物おじしない性格の人である。たぶん本人は自分が「意識高い系」だと自負していると思う。

 「あなたは政権を変えるために何かしている?」と問うと、きょとんとしていた。「2016年に韓国で朴槿恵大統領を弾劾したときは、毎週末200万人以上もの人が抗議行動に参加したんだよ。日本人は誰かが変えてくれると思っているから、いつまでたっても変わらないんだよ。」と言ったら、「はぁ…」と言ったきり黙ってしまった。

 

 数日後の金曜日、いつものように辺野古新基地建設に反対する仲間が首相官邸前に集まった。この日は、私たちの抗議行動丸5年の記念日でもあった。文字通り雨にも負けず、風にも負けず、雪にも夏の暑さにも負けず、コロナにも負けず続けてきた。自分も含め、仲間たちを大いに評価したいけれど、他方では、世の中は不穏になるばかりで、残念ながら大きな成果をあげられてはいない。だからこそ、さらに5年でも10年でも続けなければならないと思う。

 終了時刻が近づいたところで、いつものように「声よ集まれ 歌となれ」を歌った。この曲は、高校無償化から除外された朝鮮高校の抗議行動のために朝鮮大学生らが作った歌で、朝鮮の人ばかりでなく、沖縄にもフクシマにも、戦争被害者や障がい者やすべての抑圧された人々の思いに通じる名曲だ。

 歌い始めたちょうどその時に、道路の向こうの地下鉄駅から20人ほどの若者たちが出てきた。信号が変わるのを待つ間、私たちの歌に気付いた彼らは、笑顔で手を振ったり拳を掲げたりし、中には両手を高く挙げてぴょんぴょん飛び跳ねる人もいた。この日、500回目の抗議集会に参加する朝鮮大学の学生たちだったのだ。学生たちは一緒に歌いながら横断歩道を渡り、私たちの前を通り過ぎて行った。お互いに目でエールを交わし合った。まるで計ったようなタイミングで一緒に歌い励ますことができて、私たちも大喜びした。彼らにも沖縄の人々が同じように差別され続け、闘い続けていることに連帯感を持ってもらえたら嬉しい。5年目の記念写真を写してスタンディングを終了すると大急ぎで荷物をまとめ、私たちも文科省前へ向かった。

 参加者は400~500人はいただろうか。文科省正面には100人を超すほどの朝鮮学校生たちが横断幕を持って整然と並んでいた。グローバリゼーションと気候変動で、もはや一国だけの安全や平和はあり得ない時代だ。日本と朝鮮も助け合わねば生き延びられない時代が近づいているのは明らかだ。そんな時代に二つの言葉を話し、二つの国の歴史や文化、伝統、メンタリティを知っている若者たちは、両国の懸け橋になれる貴重な人財だ。材ではなく財、宝だ。そういう若い人々を育成するのは、日本人にとっても大きなメリットがあるのに、なぜ差別し、排除するのか。毅然として立ち、臆せず発言する彼らを見て、なんと立派な若者たちだろうと思った。そして、この若者たちを育てた親や祖父母、教師もまた素晴らしいと思う。私たちは日本の若者に人間の権利を教えてきたか。自分で考え、発言し、闘うことを教えてきたか。

 

 ウクライナ戦争で、イスラエルのガザ攻撃で、岸田政権の無策ぶりと自民党の裏金疑惑で、若者たちも今社会の矛盾に目覚めている。しかし、自民党支持率が下がっているからと言って喜んでばかりはいられない。自公政権への不満が第二自民党支持に向かわないように、今年もより一層声を上げなければならない。2024年は平和と民主主義を守る正念場になると思う。歴史を逆行させてはならない。みんな、頑張ろう!