「働く」はみんなのもの
竹信 三恵子
たけのぶ みえこ 朝日新聞社学芸部次長、編集委員兼論説委員などを経て和光大学名誉教授、ジャーナリスト。著書に「ルポ雇用劣化不況」(岩波新書 日本労働ペンクラブ賞)など多数。2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞。
家事労働とケア労働(11)細切れ介護への道
介護ヘルパーを苦しめたのは、一連のものである訪問介護の「身体介護」と「生活援助」への分断だけではない。2012年度からのサービス提供時間の短縮化による、細切れ介護がこれに追い打ちをかけた。
介護保険が始まった2000年、基本報酬の区分は3種類で、「身体介護中心型」が「30分未満」と「30分以上1時間未満」、「家事援助中心型」が「30分以上1時間未満」と「1時間以上」だった。だが2012年の改定で、「身体介護中心型」は「20分未満」「20分以上30分未満」、「家事援助中心型」は「45分以上」「60分以上」、「身体・生活複合型」が「20分以上」「45分以上」「70分以上」と大幅に短縮された。
ネット上で検索すると、1回の時間を短くすることは、不要なサービス提供による利用者の経済的負担を減らし、こまめな見回りができ、ヘルパーの減少の中でサービスを維持できる、など、プラス面が並ぶ。
だが、現場からの証言は異なる。認知症などの利用者にとって、症状の改善に対話は極めて重要だ。にもかかわらず、そんなことをしていては、とても時間内に終わらない。
ヘルパー国賠訴訟の原告、伊藤みどりさんの高裁での最終陳述によると、仕事を始めた2011年は1時間以上が基本で、「冷蔵庫に何があるか聞いて、一緒に調理する余裕があり」「本人同意、本人選択という教科書通りの介護の基本を実践」できたという。細切れ介護は、人との関係が命である介護労働の魅力を薄れさせ、人手不足は深刻化していく。
短時間化は、「ヘルパーの人手不足の解決策」ではなく、人手不足の原因だったのだ。介護報酬抑制を最優先する政府の意志が、その背景にある。