斎藤貴男「レジスタンスのすすめ」
社長の相似形
さいとう・たかお 新聞・雑誌記者を経てフリージャーナリスト。近刊「『マスゴミ』って言うな!」(新日本出版、2023年)、「増補 空疎な小皇帝 『石原慎太郎』という問題」(岩波現代文庫、2023年)。「マスコミ9条の会」呼びかけ人。
新年早々なのに恐縮だが、重大な問題なので書いておきたい。昨年末、プロ野球・東北楽天ゴールデンイーグルスの安楽智大投手(27)の悪質なパワーハラスメントが確認された。はたして安楽投手は事実上の解雇処分。が、これにて一件落着、とはいきそうもないのである。
なぜならメジャー帰りの〃レジェンド〃田中将大投手(35)の関与が囁(ささや)かれている。被害者数は2ケタにも達し、球団経営の責任も問われるべき状況だ。
先輩・後輩の上下関係にうるさいスポーツ界にはありがちな事象ではある。現在は中日ドラゴンズにいる中田翔内野手が2021年、当時在籍していた北海道日本ハムファイターズの同僚選手に暴力行為を働き、チームを追われた経緯も記憶に生々しい。
今回のケースはより根が深そうだ。楽天グループにはパワハラ体質をうかがわせる現実が目立ち過ぎている。
頂点に君臨する創業社長の三木谷浩史氏(58)は、いかにも今時の立志伝中の人物らしい。それだけに社内では絶対的な存在になっている。
プロ野球の関係に限っても、たとえば公式戦のスターティングメンバーは、監督ならぬ三木谷氏が決めると伝えられている。他球団から獲ったFA選手と、たたき上げ選手との著しい待遇差も、彼のハデ好きを下の人間が忖度(そんたく)しまくる結果だという。先輩や報道陣にはむしろ礼儀正しく、後輩に対する態度とはまるで違っていたとされる安楽投手のパワハラと、どこか相似形を為してはいないか。
楽天グループや三木谷氏だけの問題でももちろん、ない。デジタルだのイノベーションだのベンチャービジネスだのを有難がってはもてはやし、天まで高く舞い上がらせて堕落させてしまうのは、現代のこの国全体にまん延する風潮だ。
安楽のケースを他山の石にしてもらいたいと思う。