昭和サラリーマンの追憶
能登半島地震に思う
前田 功
まえだ いさお 元損保社員 娘のいじめ自殺解明の過程で学校・行政の隠蔽体質を告発・提訴 著書に「学校の壁」 元市民オンブズ町田・代表
1月1日、たいていの人が1 年の平穏と多幸を願う、その日、能登半島を襲った大地震。余震も続く。現地の方々の気持はいかほどかと心が痛む。
テレビの映像ではあるが、揺れや津波により多くの家屋が倒壊。約200棟の家屋が燃えた輪島の朝市周辺は爆撃を受けたような焼け跡が一面に広がる。昔、観光で行った朝市通りは木造の古い建物がいい雰囲気を醸し出していたのに…。
阪神・淡路大震災(95年1月17日発生=右写真は当時の震災を伝える「損保のなかま」190号)のことを思い出した。当時、筆者は東京で勤務しており所属も損害調査部門ではなかったが、震災発生後10日ほど経った時点で、大阪に設けられた「震災対策本部」に応援に行くように言われた。事務要員としてである。10日余りの間だったが、大阪社屋の広いロビーを臨時の作業場として何十人もが埋める中での作業だった。
そんな中でも日曜は休めたので、その日曜に現場に行ってみた。JRも分断されており何度か歩いたりバスに乗り換えたり、またJRに乗ったりして、最も被害がひどかったと言われていた長田区に向かった。最初に歩き出したときは神社の柱と壁が崩れ屋根が地面に直接置かれたようになっているのに驚いた。神戸に近づけば近づくほど、被害は大きくなっているのがよくわかった。
三宮の駅前では、デパートのビルの1階がなくなっているのを真近かで見た。長田区で駅近くの線路沿いの商店街だったはずのところを通った。両側の商店群はほとんど全焼で、焦げ臭いにおいが鼻を突き、道路に倒れた電柱をくぐったり跨いだり電線を踏んだりしなければ前に進めない状況だった。そんな中で、すでに片づけを終え更地にした土地に、「この土地は〇〇が家を建てる予定です」と立札があった。借地権との関係だろうが、復興への意欲を感じさせられ印象的だった。
宝塚に住んでいた友人からは、「家も土地もなくなった」という話も聞いた。「家がなくなるのはわかるが、土地がなくなるってどういうこと?」と訊くと、「斜面を造成した土地だったから、土地ごと崩れた」ということだった。
「災害本部」にいて、滑稽に感じたのは、毎日、東京から、「全損・半損・一部損」の基準(?)について連絡が入ることだった。はじめのうちは、監督官庁(当時は大蔵)は「査定は厳正に」と言っており、それに従って鑑定人さんたちはまじめに査定していた。ほとんどが一部損や半損で、全損で計上するなんてのは全体の中では僅かだったようだ。しかし、災害が大きく報道される中で、大蔵は「もっと支払わないと批判が大きくなる」と思ったのだろう。毎晩、全損・半損・一部損の件数と支払額を報告するのだが、翌日の昼頃には、「もっと緩めろ」という趣旨の連絡が入る。夕方戻ってきた鑑定人さんたちが、それを聞いて、「なんだよ。俺たちまじめにやってるのに・・」と愚痴っていたのを思い出す。時代が進んでいるので、今はこんなことはないだろうが・・・。
被害総額は?
損保に関わったことのある者の習性か?今回の能登半島大地震の被害総額や保険金請求総額はどのくらいのか、その数字が気になる。新聞やテレビでは死者総数は日々報じられるが、被害総額の数字は出ていない。被害全体の把握は、時間が経たなければ無理なのだろう。ただ、ネットで調べてみると、2~3載っていた。
野村総研のエコノミストは、1月5日の段階で、被害額を東日本大震災の数字をベースに、現時点で把握が可能な被害住宅数を軸にして、8,000億円強と推計している。
住宅の被害については、珠洲市の市長が1月2日、「9割方の家屋が全壊やほぼ全壊」と述べている。震源に近く被害がひどかった輪島市・珠洲市・能登町の全世帯数は合計20,921世帯。1世帯1棟と見て、その9割は18,829棟。それに他の地区の被災を加えて、19,656棟が全壊または一部壊と推計している。8,000億円という数字は、住宅以外の店舗・工場、電気・ガス・水道などのライフライン、道路・港湾などの損害も、住宅損壊の数に比例するという仮定で計算したものだそうだ。
地震保険の保険金請求額は?
ブルームバーグのサイトには、同社のアナリストが1月4日のレポートで、「正確な算定は時期尚早」と断りながら、地震保険の保険金請求額は210億円から900億円の間となるだろうと推計している。2016年以降起きた「熊本(16年4月)」「大阪北部(18年6月)」「福島県沖(21年2月)」「福島県沖(22年3月)」の4つの大地震の保険金請求総額は平均2,310億円であるが、今回の「能登半島」は被害を受けた住居数が少ないこと、大規模商業施設や工場などに大きな被害が出ていない模様だとして、「1件当たり保険金請求は少なめ」と想定した計算だそうだ。
以上のほかに、保険金支払額64億ドル(1ドル145円で換算すると9,280億円)と予測しているネット記事もあったが、あまりに大きすぎ、間違っているような気がする。
ちなみに、国土庁や損保協会の数字では、阪神・淡路大震災は、震災被害総額が9兆6千億円、損壊家屋数64万7,260棟、地震保険支払額783億円。東日本大震災は、震災被害総額が約16兆9千億円、損壊家屋40万6,535棟、地震保険支払額1兆2,891億円である。