暇工作「生涯一課長の一分」

    ひま・こうさく 元損保社員・現在個人加盟労組アドバイザー        


   世直しスト

 日本のストライキ件数が増えている。昨年の西武百貨店のストも話題を呼んだが、暇は医療関係の労働組合が、2023年に124か所でストライキを打って闘っていることに特に注目する。

 ストの要求が人手不足解消など、患者の命と健康を重視する視点が貫かれていることに高い志を感じ、リスペクトの念を惜しまない。ストライキのテーマが当事者間だけの利害争いに矮小化されず、社会的に共通するものであるからこそ、国民の支持と共感を得ているのだろう。ストライキのやり方にも工夫が凝らされている。「指名スト」の有効な活用もその一つ。「従業員一斉職場放棄」などと上段に振りかぶった大袈裟なものではなく、患者や関係者との団結を重視しながら、静かだが大きなうねりを作りだして広く国民全体に訴え、味方を増やしながら改善を進めていこうというものだ。

 

 かつて、暇たちが産業別労働組合から抜けないという理由で、解雇攻撃を受けたことがある。そのとき、暇の上司Aがストライキについてこう言ったことが忘れられない。

 「悔しかったらストでも打ってみろ。だけど会社内で数十人の少数派がストしたって会社はなんの痛痒もかんじないぞ。それとも、あんたらの産業別労組なるものが、あんたらのためにスト打ってくれるのか?他社の人間を助けるために、自分の会社に対しストを打つ?そんな高邁な精神を持った連中が、この世にいるはずがない。人間は冷たいもんだということをお前、わかってないな」

 ところが、そんな連中がこの世にいたのである。2万8千人もいたのだ。人間は決して冷たいものではなかったのだ。7年かかったが、切磋琢磨の議論の末そういう共通認識に到達したのだ。上司Aにとっては、どうにも理解しがたいことであったろう。裁判闘争の勝利とともに、最終段階で組合員2万8千人が連帯のスライキを打った。それが決め手になって闘いは勝利した。そのときのスト形態は「残業命令排除のスト権」。医療関係の労働組合の指名ストに精神は似ていたが、指名が全組合員対象だったこと、スト当日は、終業時間きっかりに全国各所で全員が済々と職場離脱したところなど形態は少々異なっていたのは当然だ。

 

 ストライキとは、今や、働くものと、まわりの多くの人々の繋がりを確認し合い、信頼と連帯を広げていく国民的共同戦線として発展しつつある。前述の医療関係労働組合のたたかいも、かつての暇たちを取り巻く連帯ストも、世の不正に対抗するものとしてストライキの質を一段と高め、国民との共通要求に根差したテーマだという点を明確にアピールしている。その効果は、上司Aのように、権力には卑屈だが、弱いものを蔑視しイジメることだけは得意。そもそも、人間を信頼できるものとして考えたこともない、そんな歪んだ固定観念への気高い対抗思想としても際立つ。

 ストライキの、こうした新たな到達地点は、働く人々の意識の高さを示すものだ。これらのストを暇は「世直しストライキ」と呼びたい。「世直し」とは、特定の相手に直接ダメージを与えるというより、国民多数の希望に基づき、国民の手による、まっとうな社会をつくり上げる壮大な事業の一環なのだと思う。