暇工作「労組に加入するということ」

    ひま・こうさく 元損保社員・現在個人加盟労組アドバイザー        


 先月号であいおいカストマーセンターの女性二名が個人加盟労組に加入したことをお知らせした。いままで、個人加盟労組に加入してくる人は、本人が解雇、人権侵害、不利益取り扱いなど具体的被害に遭った事実を背負って駆け込んでくるというケースが殆どだった。個人加盟労組は駆け込み寺的な存在という側面が大きかったのだ。

 ところが、今回のあいおいのケースは少し違う。一人は現実にパワハラ被害の当事者であるが、一緒に加盟してきたもう一人は、直接の被害当事者ではなかった。ただ、職場に蔓延するパワハラ風土をなくし、明るく仕事のできる職場を作りたいという願いから、直接被害者の仲間と一緒に加入する道を選んでいる。

 「パワハラをなくすためには、みんなが立ち上がらなければ…」「そのためにはまず自分から立ち上がらなければ」と行動に踏み切ったのであった。それは決して「被害を受けた仲間を助ける」行動ではなく、「自分のための行動」でもあった。自分が被害を受けてから、ではなく、受ける前に行動をする。積極的・能動的加入だった。こういう思考をする人が増えれば、確実に職場は変わる。いや、日本が変わる。

 

 日本プロ野球選手会労働組合の場合。佐々木朗希投手(ロッテ)や、ドジャース移籍前の山本由伸投手(当時オリックス)などは労組に加盟していない。実力に自信がある選手は、「みんなで団結して」などという発想には与しないのだろうか。「みんなで力を合わせて」などは弱者の考えることであり、カッコ悪い思想なのだろうか。自分に実力さえあれば、世の中はわたって行けるのだと、ほんとに思っているのだろうか。

 損保の職場でも、労働組合などに頼るより、まずは、自分個人の実力を磨け、などという俗説を説く人がいないわけではない。だが、それって、なにか勘違いがあるように思う。仕事上の技術・実力と、団結してみんなの共通の権利を守り発展させるパワーは、別次元の問題なのだ。

 たとえば、日本プロ野球労組が結成された当時、加盟を拒否した選手の中に、当時の三冠王・最実力者ともいえる落合博満選手もいたが、彼が行使した「フリーエージェント権」は、労組が苦難の団体交渉の末勝ち取った権利だった。決して三冠王を獲得するほどの選手個人の「実力」がその権利実現の源だったわけではない。 

 

 あいおいカストマーセンターから個人加盟労組に加入してきた女性たちの行動が先進性を持つのは、自分たちの「実力」を労働者全体の視点で捉えていることだ。そして、その実力を発揮するためにも、「まずは自分が動く」ことから始めた点だ。自己を信じて行動すること。同じ要求を持つ仲間を信じて一緒に立ち上がること。この二つが見事に溶け合い、昇華されているのだ。