スポーツとギャンブルは兄弟文化 水原通訳失敗の原因


           玉木 正之        


 たまき・まさゆき スポーツ文化評論家,日本福祉大学客員教授。著書に『スポーツとは何か』(講談社現代新書)など多数。近刊は「真夏の甲子園はいらない 問題だらけの高校野球」(編・著、岩波ブックレット、2023年)


 ドジャースの大谷翔平選手と一心同体の活躍をしていた通訳の水原一平氏が非合法賭博に手を出し、7億円近い借金を重ねた事件には驚かされた。が、スポーツと賭博(ギャンブル)は近しい文化と言えるのだ。

 古代ギリシャでオリンポスの神々のような美しい体に近づこうと努力する行為がスポーツなら、神々の意向を聞こうとする行為が賭博と言え、実際古代オリンピックでは、神々がどの競技者を勝者にと考えているかを予想する行為として、賭博が行われていた。また、詩・音楽・絵画・彫刻などの芸術(アート)も、神々をたたえることから生まれた文化で、スポーツと賭博と芸術は「兄弟文化」と言えるのだ。

 日本では、賭博は刑法で禁止され、競馬・競輪・競艇・オートレース・totoの公営賭博しか許可されていない。が、世界に先駆けて1960年に賭博解禁法を施行し、あらゆる賭博の実施を許可したイギリスでは、政府から次のような声明が出された。「ギャンブルはコントロールすべきだが、禁じるものではない(略)禁止したためにかえって犯罪を生むものである」(谷岡一郎『ギャンブルフィーヴァー』中公新書より)

 この論理が正しいとされるとき、必ず例に出るのが1920年から33年まで米国で施行された禁酒法で、その間アル・カポネなどのギャングが密造酒や密売酒、闇営業のバーなどで大儲けしたという事実があった。だから賭博を禁止したら、闇社会の闇賭博に潜り、反社会勢力の利益になるだけと言われる。

 水原氏の事件もアメリカ38州と首都で合法とされているスポーツ賭博(ベッティング)が禁止されているカリフォルニア州で起きた。このスポーツ賭博を日本でも解禁しようとする動きがあるが、あなたはどう思いますか?