守屋 真実 「みんなで歌おうよ」

                     


 もりや・まみ ドイツ在住27年。ドイツ語教師、障がい児指導員、広島被ばく2世。父は元千代田火災勤務の守屋和郎氏 

                   


  私は月に3回知的障がい者のグループホームで夜勤をしている。障がいと言っても軽度で、昼間は就労している人たち5人なので楽な仕事だ。20代、30代の人もいるので、私にとっては若い世代と接する貴重な機会でもある。6月16日もここで働いていた。みんな20時には自室に戻るので、一人キッチンのテレビで沖縄県議選の報道を見ていた。

 絶句‼ 自宅でならばテレビに向かって罵り言葉を浴びせるところなのだけれど、勤務中なのでそうもいかない。悔しくて、悔しくてなかなか寝つけず、腹の虫が治まらないので、翌日の「司法の劣化を許さない 6.17最高裁共同行動」に参加することにした。二年前の6月17日に生業、群馬、千葉1陣、えひめの4原発被害者訴訟に対して、最高裁が国の賠償責任を否定した忖度司法に対する抗議である。各地の原発事故被害訴訟団が署名や要請書を提出し、その後、参加者のヒューマンチェーンで最高裁を取り囲む行動だ。未来のための合唱というグループで「民衆の歌」を歌うから来てと誘われていたのだけれど、夜勤明けで行くのはきついなーと参加を迷っていたのだ。でも、家で腹を立てていても何にもならない。こういう時は行動するに限る。

 翌朝急いで帰宅し、シャワーを浴びてコーヒーを胃袋に流し込む。一度くつろいでしまったら行くのが億劫になってしまうから座らず、洗濯を済ませてすぐに出発。現地に着いた11時にはもう陽が高く蒸し暑い。おまけに日陰が少ない。それでも、東京のうたごえの大熊啓さんのリードと多摩川太鼓の共演で何度もくり返し歌う。

 

      闘う者の歌が聞こえるか 鼓動があのドラムと響き合えば 

      新たに熱い命が始まる 明日が来た時 そうさ明日が

   列に入れよ 我らの味方に 砦の向こうに世界がある

   闘え それが自由への道*

 

 見知った顔が、通りながら手を振ってくれる。知らない人もにこやかに頷いたり、拳を挙げて一緒に歌いながら通る。汗だくで声もかすれてしまうけれど、全力で歌っていると前夜からの怒りが収まっていくのが分かる。みんなで歌うっていいなと改めて思った。

 

 ヒューマンチェーンと言えば思い出すのが、1989年8月23日のバルトの道運動だ。まだ独立していなかった現バルト三国で、自由と民主主義、民族自決を求めて、およそ200万人がタリン、リガ、ビリニュスの600㎞を手をつないで並んだ。史上最長の人間の鎖だった。当時私はドイツに住んでいて、次々と届くテレビや新聞の報道に驚き、こういう闘い方もあるのかと感激した。いつかこんな大規模な行動に参加してみたいものだと思った。この平和な市民運動が、のちの東欧革命とソ連の崩壊を導いたのだ。ただの市民でも、非暴力でも、たくさんの人が思いを一つにして集まれば世界を変えることができる。

 

 バルトの道に比べれば最高裁包囲などささやかなものだが、うだる暑さの中、千人近い人々が手をつなぎ、共に歌い、最高裁を包囲したのだから、この国にも希望がある。国会では入管法や政治資金規正法、地方自治法と悪法・ザル法が次々と可決されてしまったけれど、あきらめないぞ!負けてたまるか!主権者は私たちだ。

 帰りの電車の中では睡魔との戦いで、乗り越さずに帰って来たのはほとんど奇跡だったけれど、心は晴れやかになった。

 沖縄の悔しさは、東京でリベンジしよう!

 

*ミュージカル「レ・ミゼラブル」の主題歌。日本語詞:岩谷時子